エッチな羞恥体験談その1


 古びた雑居ビルの非常階段を降りて行くと、通行人の驚きと好奇の入り交じった視線が待ち受けていた。私はそれらを無視して急ぎ足で裏通りに向かった。
 少し緩めの真っ赤なハイヒールは、まるで水遊びの後の子供の靴のように濡れて、歩く度に中から湿った嫌な音をたてている。派手なレースをあしらった純白のショーツは言うに及ばず、パンストも深紅のスーツのスカートもびしょ濡れだ。
 船の引き波のように、私の後を人々のざわめきが追いかける。妙齢の女性が失禁した姿なんてめったにお目にかかれない光景だから無理もない。私は唇を噛みしめて、うつむいたまま路地へ逃げ込んだ。
「はい、お疲れさま。早く乗って」
 路地裏に停めてあるワゴン車のスライドドアが開き、私は夕立の時の雨宿りのように一目散に飛び乗った。続いて、デジカムを抱えた男性二人、一眼レフカメラを首から下げた男性一人が車内に飛び込んできた。
「どうだ? いい絵が撮れたか?」
 ドライバーズシートの監督が振り返るなり早口で聞いた。
「バッチリです。光の回り具合もよかったし…なっ!」
「ええ、ギャラリーの反応も上々ですよ。美紀ちゃんには気の毒だけどね…」
 デジカムを持ったカメラマン二人が満足げな表情で言葉を交わす。
「よし、時間がないからスタジオに急ぐぞ」
 言うが早いか、彼はワゴン車をスタートさせた。私はビニールシートを敷いた後部座席で濡れたスカートとパンスト、ショーツを脱ぎ、タオルで体を拭きながらウーロン茶をボトルのままラッパ飲みした。喉が渇いてもいないのに無理して飲むのは少々辛い。
「オシッコ貯めるのも大変ね」
 脱いだスーツをビニール袋に入れながら女性スタッフの一人が私に向かって言った。衣装担当の彼女は他のスタッフからはユイちゃんと呼ばれていて、普段は事務所で注文を受けたビデオの発送をしている紅一点のフリーターだ。
「そうね…でも、撮影が終わった後も大変なのよ。摂り過ぎた水分が体から抜けてないからトイレは近くなるし、撮影で1日に何度もおもらししてるから漏らしグセがついたみたいに我慢できなくなるし。帰りの電車で本当に漏らしちゃった事だってあるのよ」
 私は狭い後部座席で自前のスカートに履き替えながら小声で答えた。
「それって、もったいないわね。今度から撮影終了後はカメラを持って後を尾けなきゃ」
「撮るのはいいけど、残業手当は申請しますからね…」
「本職が経理事務だけあって細かいのね…」
 スタッフの一人が言ったように、私は普段、モデルプロダクションの経理担当事務をしている。しかし、普通のプロダクションの類ではない。アダルト系の写真集やビデオにモデルを派遣する類のプロダクションだ。弱小プロだけど、ここ数年フェティズム系の写真集やビデオが売り上げを伸ばしているおかげでまあまあ潤っている。
 そして私の非常勤業務…と言うかアルバイトがそのアダルトビデオ出演で、正式にはモデル登録されていないものの、オシッコのおもらし系を専門に裸とセックスは一切無しという条件で出ている。
 そもそもの始まりは、おもらしビデオに派遣される予定の子が食中毒で入院してしまった事だ。運悪く空いている子がいなくて、たまたま社長と目があったのが運の尽き。
『脱ぎとカラミはないから…服を着たままでオシッコするだけだからさ…一回だけ…』と何度も頼み込まれて断りきれなくなってしまった。さすがに本名の「鹿島美由希」を名乗るわけには行かず、その場で「冴島美紀」という名が決まった。
 レオタードやテニスウェア、スケートウェア等といったスポーツコスチュームを着ておもらししたのが初仕事だったが、スタジオの眩しい照明に照らされ、ビデオカメラやスチールカメラに囲まれる中での撮影は緊張の連続だった。我慢できないほどオシッコしたかったのに、いざとなるとなかなか出なかった覚えがある。
 あれから1年半…。一度だけのつもりだったのが二度三度、気が付くといつの間にか失禁モノを扱うインディーズ系のビデオメーカーの作品にに通算6本も出ていた。これが7本目だ。いまではすっかりおもらしが板についてしまった。
 私のおもらしは映像として切り取られ、それがビデオソフトとなって市場に流通し、見知らぬ人達が買い求めて鑑賞する。それは間接的とはいえ、おもらしを人前…つまりビデオソフトを購入した人達全員の前でしているのと同じ事だ。冷静に考えればとんでもなく恥ずかしい仕事だ。
 ともすれば自己嫌悪に陥りそうな私をかろうじて支えていたのは、おもらしビデオの出演はあくまでアルバイトだという私のこだわりと「冴島美紀」という私のもう一つの名前だけだ。
 殺風景なスタジオに簡単なセットが組まれ、私は用意されたオレンジ色のミニドレスに着替えた。社交ダンスで使うような薄手のドレスの裾を思いきりよく膝上10センチで切り取ったようなそれは、まるでひと昔前のB級アイドル歌手の衣装だ。
 ストーカーに拉致監禁されたという設定なので、私は後ろ手に縄で縛られる。当然この後は、そのまま部屋に放置されてトイレにも行かせてもらえず…というお約束の失禁シーンが控えている。
 さっき撮ったばかりの失禁シーンも、駅のトイレで待ち伏せしていた同じストーカーに執拗に尾け回され、ビルの非常階段に身を潜めているうちに我慢できなくなって漏らしてしまった…という設定だ。漏らしたオシッコの雫が階段から滴り落ちて隠れている場所がバレるという演出も、この手のビデオとしては凝っている方かもしれない。
 床には私と同じドレスをまとった着せ替え人形が無造作に転がっている。私を拉致したストーカーは偏執的な人形マニアのという事になっていて、私は生身の着せ替え人形として弄ばれるOLといった役どころだ。
…着せ替え人形…か…。変わってないな…私って…
 私は数年前の自分を思い出して苦笑した。三脚に据え付けたデジカムに映像出力用のケーブルを繋いでいたスタッフの一人が怪訝な顔で私を見る。
「あ、何でもないんです。ちょっと…思い出し笑い…」
「もうすぐ本番なのに、余裕だね。 美紀ちゃん」
 彼は手慣れた動作でモニターとデジカムの電源を入れながら言った。モニターで確認しながらカメラがそれぞれ所定の位置に散って行く。私が監督に指定された位置に座ると、ユイちゃんがドレスの裾をきれいに広げてくれた。彼女は念願かなってこの春から地元の地方新聞社に採用が決まったので、この仕事もこれが最後だ。
「美紀ちゃん、もうちょっと膝を立ててもらえるかな。スカートの中が見えないから」
 モニターを見ていた監督から注文が来る。私は少し膝を立て、床すれすれに置かれたデジカムから見えるように、揃えた脚を斜めにずらした。今回はショーツの濡れ具合をアップで撮るシーンも並行して撮るので、一気に漏らしてはいけない事になっている。
 リアルなおもらしを演出する意味で、我慢の限界を越える直前の少量の失禁…いわゆるちびった状態も撮るからだ。
 床に置かれたデジカムの映像チェックをしていたスタッフから画像が暗いとクレームが付き、急遽スカートの中を照らすライトが追加された。諸々のセッティングを整えている間に2時間が過ぎ、私の尿意はかなり危ない領域に入った。ロケ現場からの移動も入れれば3時間以上になる。膀胱は満杯状態だ。
 私がオシッコを我慢している姿を延々と撮った後、やっと監督からおもらしOKのサインが送られた。スタッフの顔に緊張が走る。
 私はスタジオの片隅のモニターを見ながら慎重に少しづつ、時間をおいて何度かに分けてショーツの中にオシッコを漏らしていった。モニターにはその都度じわっと濡れて色を変えるショーツが克明に映し出される。編集段階では私の苦悶の表情にカットインされて、我慢の限界の演出に一役買う事になるだろう。
 3台のカメラで同時に撮っているので表情や体のくねらせ方まで気を使う。少しづつ漏らしたオシッコは、いつしかショーツのお尻の辺りまで温かい感触をのばしてきた。
 そろそろ頃合だ。私は体を小刻みに震わせ、虚ろな目で宙を見つめた。少しわざとらしいが、我慢の限界を越えた瞬間の演技だ。
 私は徐々に膀胱の緊張を解いていった。潮が満ちるようにショーツの中にオシッコが広がり、私のお尻の辺りが再び温かくなっていった。本当は一気に漏らして楽になりたいところだが、囚われの身で、しかも自分を拉致したストーカーが目の前にいるという設定ではそうは行かない。絶対に見られたくないのにどうしても我慢できない…という凝った漏らし方が要求される。
 私が漏らしたオシッコはショーツから溢れ、パンストの編み目を抜けてそのまま床に流れていった。淡い黄色の水たまりは輪郭をくっきりとライトに照らされながら、フローリングの床をゆっくりと這うようにきれいに広がって行く。監督が3台のモニターを見比べながらうなずいている。予定通りだったようだ。
 今日のように座ったままのおもらしを撮ると、時としてオシッコの水たまりがあらぬ方向に流れたり、またライティングのミスでオシッコがきれいに映らなかったりする事がある。しかし、今回は前もってに水準器で床の僅かな傾斜を計ったり、コップの水を流したりしてから私が座る位置やライティングを決めるという念の入れようだった。
 ここまで徹底しておもらしを撮るスタッフも珍しい。
 慣れというのは恐ろしいもので、素人の私でもこんな人達と1年半も仕事を続けていると、演出の指示を聞いただけで出来上がりの絵が想像できるようになるし、スタッフが失禁ビデオの撮影に慣れているかどうかが目利きさえできるようになってくる。
 アルバイトだったはずなのに…いつの間にか私も、おもらしに関しては一人前のプロの領域に踏み込んでしまった。でもそのかわり、漠然とした虚しさのような心の渇きを感じるようにもなっていた。「冴島美紀」という私と「鹿島美由希」という私……そのギャップがそうさせているのかもしれない。
 初めてビデオの仕事をした頃は無我夢中で、そんな事を考える余裕もなかった。そして気が付いてみると、今さらそんな事を考えたところで仕方がないという状況だった。
 ビデオの中の私は「冴島美紀」という別の私…そう言い聞かせてきた1年半…。いつの間にか私の中で「冴島美紀」が一人歩きしていた。でも…私はそろそろ本当の自分に…
「鹿島美由希」に戻りたいと思うようになっていた。
…もう…潮時かもしれないな…
 ふと、そんな想いが胸をよぎった。考えてみれば、公然と失禁して高収入にもなり、おもらしで汚した服の後始末さえしなくていいなんて…やっぱり何か変だ。仕事だからと言えばそれまでだけど…それはおもらしではなくて、おもらしというタブーを冒して
みせる代理行為に他ならない…と私は思う。
 私にとってのおもらしは、恥ずかしくて…情けなくて…そして、自分で自分を抱きしめたくなるような切なさを感じるものだったような気がする。オシッコが出てしまった時の『あっ…』と思う瞬間…。我慢していた尿意から解放されて行く時の気怠いような
 解脱感…。トイレ以外の場所で衣服の中にオシッコしているという奇妙な罪悪感…。
 それらの複雑で繊細な感情の機微に較べれば、今はただ服を着たままオシッコしているだけのものだ。もちろん、仕事上の事とはいえ恥ずかしさも感じるし、情けないとも思う。でも、その感情そのものはとてもドライなものだ。
…あの頃に…あの頃に戻りたいな…
 いつしか床いっぱいに広がったオシッコの水たまりにドレスを浸して座ったまま、私はビデオの巻き戻しのように記憶と時間を遡っていった。
 私が「冴島美紀」ではなく「鹿島美由希」だった頃…。タブーの扉を恐る恐る押し開けた…あの日…あの時…。

 そう…私がおもらしを意識した最初の出来事は、テレビで事件物の映画を見ていた時だったと思う。強盗に人質にされていたOLが銃撃戦の末に無事に救出された時、部屋の隅にうずくまったまま震えている彼女の前には小さな水たまりがあって、ミディアムグレーのタイトスカートも濡れて色が変わっていた。それが恐怖のあまり漏らしてしまったオシッコだと気付くまでに、私は一瞬の時間を要した。
 ほんの数秒のシーンだったが、私は我が目を疑った。映画のワンシーンとはいえ失禁シーンが放映されるなんて思っても見なかったからだ。
 小説などでは時おり目にする、恐怖を表現する手段として失禁。それを映画やドラマで用いないのは制作上の約束事だと思っていたし。長時間に渡って監禁拘束されている設定なのにトイレに困らないのも、同様に何かしらの制約があるものと思っていた。
 その夜、私はその映画の失禁シーンが目に焼き付いて、なかなか寝つけなかった。恐怖の余韻と恥ずかしさに顔を覆って泣きじゃくるOLと、優しく慰めながら毛布を掛ける女性刑事…。そのシーンを何度もプレイバックしているうちに、妄想の中の私は、いつしかおもらししてしまった惨めなOLとオーバーラップしていた。
 もし本当に人前でおもらししたら…それを誰かに優しく慰めてもらったら…考えれば考えるほどそれは恥ずかしくて惨めな仕打ちなのに、それでも私は胸が熱くなるような不思議な気持ちを抑えられなかった。私は初めて、オナニーで気の遠くなるほどの絶頂を感じた。確か…高校2年の夏…だった。
 しかし、この頃の私はまだ実際におもらしした事はなかったし、またその勇気もなかった。ただ、特に理由もなくオシッコを我慢して授業を受ける事はあった。おもらししそうな自分を想像してオシッコの出口に力を入れてみたり、足をモジモジと摺り合わせてみたりといった事もしていた。
 物心つく前からおもらしは恥ずかしい事、してはいけない事として躾けられ、私もそれに忠実に育ってきたつもりだが、「してはいけない」という領域のタブーは、この頃すでに私の中で夏の日の氷のように溶けかかっていた。そして、本当におもらししたらどんな気分なのか試してみたいという衝動にしばしば駆られるようにもなった。
 家で、雨の日の電車内で、人気のない通学路で、私は思い切ってやってしまおうかと何度も思った。それでも、服を着たままでトイレ以外の所でオシッコする事にはどうしても抵抗があって実行する事はできなかった。妄想の世界と現実の大きな壁を感じた。
 ところが、高校3年の冬…同じ歳の女子高生の失禁を偶然間近で見てから、私のおもらし感は大きく変わった。そう…あれは大学受験の試験日。3校受験した内の1校目の女子大だった。
 解答用紙に黙々と答案を書き込む鉛筆と紙が擦れる音。その単調な音にかすかな雨音がノイズのように埋もれていた。朝から冷たい雨が降り続く寒い日で、休憩時間の度にトイレは混雑していた。中にはトイレに入れないまま休憩時間が終わってしまう気の毒な子もいて、私もその一人だった。
 朝、試験前にトイレに行ったきりだった私は、最後の科目を迎える頃には激しい尿意と戦いながらの試験になっていた。トイレの事で頭がいっぱいで考えがまとまらない。しかし、一度退室したら再入室は禁止のはずだ。
 トイレを我慢して問題用紙と向き合ったところで結果は知れているから、冷静に考えれば試験を放棄してでも失禁は避けるのが懸命だ。でもその時の私にはまだ、トイレと引き替えに試験を棄てるほどの勇気はなかった。もう少し…もう少し我慢してから…。あと1問解いてから…そう思いながら自分を励ますが、事態は悪くなる一方だった。
 このままぐずぐずしていたら…。もしかすると…私…本当に漏らしてしまうかも…。そんな不安が夏の入道雲のように現実味を帯びて湧き上がってくる。このまま行けば私の身に起こるのは紛れもなく本物のおもらしで、今までの妄想の世界とは全く違う現実の世界…。私は試験を棄てようと本気で考え始めた。
 その時…私の近くで床に水の滴るような音が聞こえてきた。雨音とは異なるその音色は静かな試験会場に響きわたり、鉛筆を走らせる音が一斉に止まった。それは私の斜め前の席の子だった。泣いているのか、机に顔を伏せた彼女の肩が震えている。
 補助生に連れられて退室するかわいそうな彼女…。どこの高校の制服なのかわからないけど、私の横を通り過ぎた彼女の濃紺のプリーツスカートはぐっしょり濡れて重そうに揺れていた。スカートの裾からはまだ雫がポタポタと垂れている。
 試験官は急遽、トイレに限って途中退室と再入室を認めると言った。その一言は、私にとって待ち望んだ救いの言葉のはずだった…。なのに、途中退室して入ったトイレの中で私は、安堵感と同時に何となく割り切れない苦い思いを味わっていた。
 詰まる所、私を含めてトイレを我慢していた受験生たちが途中退室を許されるようになったのは、試験中に失禁してしまった彼女の犠牲あっての事だ。同じ条件で試験に臨んだはずなのに、彼女だけが貧乏クジを引くなんて何ともやりきれない気持ちだった。まして生理現象が明暗を分けるなんて不公平すぎる。おもらししていたのは私だったかもしれないと思えばなおさらだ。
 失禁した彼女が私だけの犠牲になったわけでもないのに、私は彼女に対して何となく後ろめたいような負い目を感じていた。それは、おもらしの本当の惨めさも辛さも知らずに妄想にふけっていた昨日まで自分が、あまりにも浅はかで不謹慎に思えて恥ずかしったからだ。
 帰宅して入ったトイレの中で私は、こうしてトイレで排尿するという当たり前の行為でさえ、彼女に申し訳ないように感じていた。おもらしして犠牲になるべきだったのは彼女ではなく私だったのではないか…。そんな気持ちが心の中で渦巻いていた。
 私の中で常識に対するタブーだったおもらしは、この時からそのまま彼女の自尊心に対するタブーでもあった。その一方で、せめて私も彼女と同じような恥ずかしさを味わって、少しでも心の負い目を軽くしたい…といった考えも持っていた。
 言うなれば、私にとっておもらしは、失禁した彼女に対しての冒涜行為であると同時に、犠牲になった彼女に対しての一種の贖罪でもあった。
 受験した3校に運良くすべて合格した私は、敢えて最初に受けた女子大に進んだ。別にそこに行ったからといって例の彼女がいるとは思えなかったが、しいて言うなら私のこだわりのようなものだ。仮に彼女が入学していたとしても、顔も名前も知らないのでは探しようがないし、また会ったところでかける言葉はない。
 それでも新しい生活に慣れるにつれ、少しづつ私の心の重荷も軽くなり、入試の日の事も記憶の片隅に追いやれるようになっていった。そして、皮肉にもそんな頃になってから、私は再びおもらしと関わりを持ってしまった。
 1度目は入学した年…。その冬初めて雪が降った日だった。午前中から降り始めた雪は、昼過ぎには東京を銀世界に染め、学校から駅に続く舗道も5センチほどの雪に覆われていた。私はスカートにブーツで来た事を幸運に思った。雪の日は足元が濡れるからパンツスタイルは不向きだ。
 駅に着くと、まだラッシュの時間には早いのにホームには人があふれていた。いつもなら数分おきに来る電車もなかなか来ない。吹きさらしのホームに立っているうちに体が冷え、私は無性にトイレに行きたくなったが、後ろに並んでいる人の多さにうんざりしてあきらめた。風は冷たく、相変わらず電車は来ない。
 そして、やっぱりトイレに行っておこうと思い直した頃になって電車が入って来て、私は迷う間もなく人波に押されて乗り込んでしまった。線路上に車両が詰まっているのか、私が乗った電車は道路渋滞のように動いては止まるの繰り返しだった。私が降りるのは2駅先だが、この調子では駅に着くまで我慢するのは辛そうだ。
 電車が次の駅に着いた時、私は降りる人の流れに乗ってドアの近くまで移動した。できる事なら途中下車してトイレに行きたかったが、取り合えずここにいれば、駅に着いた時に真っ先に降りる事はできる。
 満員電車からやっと解放された時、時計を見るとたっぷり40分以上かかっていた。私は階段を駆け下りてトイレに向かった。しかし、女性トイレの前には順番待ちの長い列ができていて、中には我慢できないのか、男性トイレに入って行く女性もいた。私はやむなく駅の改札を抜けた。
 この駅は小規模で利用客もそれほど多くないので、駅前には銀行の出張所とクリーニング店、薬局ぐらいしかない。どこかでトイレを借りようにも、私のアパートの近くまで行かないとコンビニすらない。私はハーフコートの襟を立てて早足で歩き始めた。
 雪混じりの風は刺すような冷たさで、私は何度も膀胱を鷲づかみにされているような激しい尿意に襲われた。帰ったらすぐに部屋に入れるように、歩きながらバッグの中から鍵を取り出してポケットに入れる。いつしか私は、尿意に急かされるように小走りになっていた。
 少しでも近道をしようと路地を入った時、雪の下に隠れていたマンホールの蓋に乗って滑り、私はその場に転倒してしまった。痛さと雪の冷たさとで下半身全体がジンジンしている。乱れたスカートを直して急いで起き上がろうとした時、私はショーツが濡れているのを感じた。雪で濡れたかどうか確かめるまでもなかった。
「あっ……」
 もはや手遅れだった。雪と風で冷えた体には熱く感じるほどのオシッコは、ショーツやタイツ、お気に入りのスリットスカートまで、あっという間に濡らしていった。私は恥ずかしさと、尿意から開放された解脱感とで、金縛りにあったように動けなかった。ただスカートの裾を握りしめたまま、目の前の雪が私のオシッコで黄色く溶けて行くのを呆然と眺めているしかなかった。
 起き上がったてみると、お尻と脚は雪とオシッコとでびしょびしょだった。私は人目を避けるように急ぎ足でアパートまで帰った。スカートとタイツが濡れているのを見た人が、雪で転んだせいだと好意的に解釈してもらえるようにと祈りながら。。
 そして二度目は夏だった…。大学に入った二年目の8月。私は友達3人と伊豆に遊びに行った。友達の一人の実家が西伊豆で民宿をしていたので、友達の帰省がてら一週間ご厄介になり、仕事を手伝ったり、近くの海岸へ海水浴に行ったりした。
 海水浴場の大半は利用客の割にトイレの数が極端に少なく、その海水浴場も例外ではなかった。しかも簡易式のそれは、暗い、臭い、汚いの3Kだ。それでも苦情が出ないのは、オシッコの場合、ほとんどの人が海の中で済ませているからだろう。事実、友達をトイレに誘った時も、返ってきたのは『木の葉隠すには森の中よ』の一言だった。
 その後、私が海の中でオシッコしたかどうかを聞かなかった事からすると、彼女にとって海の中で済ませるのはトイレと同じぐらいに抵抗なくできる当然の排泄行為なのかもしれない。そういえば、他の友達も誰一人トイレに行った様子はなかった。
 もちろん私も、簡易式のトイレでするよりは海の中で済ませる方を選んだ。着ている水着がワンピースならなおさらだ。私も、過去には何度も水着のままオシッコしている前科のある私だが、それでも水着の中にオシッコするのは何だかいけない事をしているようなスリルと恥ずかしさが伴った。
 エアマットに掴まり、穏やかな波に揺られながらそっと尿道の緊張を緩める。濡れてひんやりした水着の中が温かいオシッコで満たされて行く感触と、膀胱が苦痛から開放されて行く感じは、あの雪の日のおもらしを思い出させて私を赤面させた。
 夕方、海岸で遊ぶ人がまばらになった頃、私はちょっと大胆な気分になり、二度目のオシッコは立ったままでしてしまった。波打ち際でビーチサンダルの砂を洗い流している時に不意にオシッコがしたくなり、廻りに誰もいないのを確かめてからそっと力を抜くと、あっけないほど簡単にオシッコが出た。
 生乾きの水着がふわっと温かくなり、両脚を濡らして温かいオシッコが幾筋も伝い落ちて行く。そのくすぐったくて怪しい感触と、水着とはいえ紛れもなく衣服を着たままオシッコしているという罪悪感…。そして、立ったままのオシッコするという普段できない事をしている不思議な違和感…。私はオシッコが終わると、思わずその場にへたり込んでしまった。
 誰も気付かない水着のおもらし…しかし、まぎれもなく自分の意志でしてしまった私の初めておもらしには違いなかった。越えてみたいけど越えてはいけない境界線に一歩踏み出してしまった事を私は実感した。

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