エッチな羞恥体験談その3


 そして翌月の土曜日の朝早く、Nさんと私は国道沿いのバス停で待ち合わせた。今日私が着ている、白いブラウスと膝丈の淡いクリーム色のプリーツスカート、オリーブ色の麻のジャケットは、当時Nさんの彼女が着ていた服と同じ組み合わせだ。Nさんに連れられてお店を何軒も回って揃えたこの服も、おそらく今日限り着る事はないだろう。
 約束の時間にバス停に行くと、すでに黒い4WD車が停まっていた。傍らにNさんが立っている。いつもNさんは電車で会いに来ていたので、彼のクルマを見たのはこれが初めてだった。Nさんのそれはアメリカ製のジープで、左側にハンドルが付いている。
 私は、幌を開け放ったジープの頼りなさそうなハーフドアを開けて中に乗り込んだ。グレーのビニールレザーのシートがひんやり冷たい。外見の派手さとは裏腹に、内装はモノトーンのシンプルなものだった。
 調布ICから入った中央高速は、相変わらず混んでいたが、今日のような天気の日にフルオープンというのはなかなか気持ちいい。欠点はスピードを出すとエンジン音と風切り音とで会話が成り立たないのと、少し目立ちすぎる事だ。
 Nさんと普通に知り合って、普通にお付き合いをしていたらきっとこんな風に休日を過ごすんだろうな……と、私は助手席で風に吹かれながらふと思った。
 普通に知り合い、普通にお付き合いしたNさんと彼女はおもらしが原因で別れ、その一方では、おもらしが縁で知り合い、ちょっと変わったお付き合いをしたNさんと私は普通のお付き合いができなくて別れる…何とも皮肉な巡り合わせだ。

 男の人と二人でどこかへ行くといった経験のなかった私にとって、この日のドライブは複雑な思いを抱きながらも、新鮮で楽しいものだった。レストランのスモークガラスのドアに映るNさんと私は、仲の良さそうな二人連れそのもので、そこには私が求めても手に入らないNさんと私の普通の関係があった。
 朝から水分を控えていた私だったが、昼食を食べ終わった頃からトイレに行きたくなってきた。Nさんとの約束では、トイレに行く事は禁じられている。だから私にできる事といえば、ギリギリまで我慢する事という消極策と、おもらしする場所を選ぶという積極策の二つしかない。
 でも、今日の私はそんな気にはなれなかった。約束違反なのは判っていたが、せめて今日一日…最後の一日ぐらいはNさんと普通の関係でいたい…そう思いはじめていた。私がNさんの彼女だった人の身代わりになるのはまだいいとしても、私まで同じようにおもらししなければならない理由はない。
 それがNさんの性癖を決定づけたショッキングな出来事だったとしても、彼女にとってのそれが、不幸なアクシデントでしかなかったのなら、私は無理にトイレを我慢してまでおもらしするといった、彼女を冒涜するような真似はしたくなかった。
 それで気が済まないと言うのなら、帰ってから街の雑踏の中でおもらしして見せてもいい…そんな気分だった。私はそんな心の内をNさんに言ってみた。返ってきたのは、どうしても我慢できなくなったらトイレに行っていいという意外な返事だった。
 私は一瞬安堵したが、すぐにそれは大きな間違いだと気づいた。我慢できなくなった時に近くにトイレがある確証は何一つ無い。仮に、我慢できないフリをしてトイレに行こうにもトイレの無い場所ばかりを選んで走られたら何にもならない。
 そしてその予想通り、Nさんはジープを山道へと走らせた。つづら折れの続くその道を、彼のジープは排気量に物言わせて一気に登って行く。幌を開け放ったままの車内には、まだ9月の下旬だというのに冷たい風が吹き込んできた。山の木々もちらほら色づき始めている。
 着いた先は八ケ岳の北側の麦草峠だった。駐車場に入れると、Nさんは慣れた手つきでジープの幌を張った。日本最高地点の国道という看板が目に付く。二千メートル以上の山の上だから寒く感じるわけだ。
 木枯らしを思わせる冷たい風を受けた薄手のプリーツスカートは簡単に舞い上がり、私は何度もスカートの裾を押さえた。肌を刺す冷気が膀胱を刺激する。麻のジャケットぐらいではとても風をしのげない。
 私たちは遊歩道を少し入ったところで写真を撮った。思えばNさんが私を撮った中で唯一まともな写真だったかもしれない。人気のなくなったところで不意にNさんは立ち止まり、いぶかしげに見る私に背を向けて薮の中に分け入るった。ほどなく枯葉を叩く放尿音が聞こえ、彼の足元から湯気が立った。
 やられた…。Nさんがトイレに行った隙に私も行くという方法を密かに考えていた私にとって、それは大きな誤算だった。もっとも女の私がNさんより先に済むとは到底思えないから、それはNさんにバレるのを覚悟の上の奥の手だった…。私は次第に追い込まれて行く焦りを感じながら、Nさんに促されてジープに乗り込んだ。
 外は晩秋を思わせるような陽気でも、幌を張ったジープの中は陽だまりのように暖かい。トイレを我慢している私にとって、寒さが膀胱を刺激しないだけでも多少は救われる気分だ。やがてNさんのジープは峠を下りきって、下の国道を右折した。道路標識の表示に「清里」「韮崎」といった地名が頻繁に出てくる。
 それを見てNさんは、清里に寄って行こうと言い出した。それは私にとっても好都合だった。清里あたりまでなら何とか我慢できそうだし、そこで喫茶店にでも寄ってくれれば堂々とトイレに行ける。たとえ寄ってくれなくても、清里には何度か来ているからどこに行けばトイレがあるか見当はつく。
 私はせかされるようにロードマップを開き、現在位置と地図とを照らし合わせる作業を続けた。地図の上ではすぐそこのように思えるのに、終始60キロ程度で走っているジープでさえカタツムリのようにゆっくりと地図上のルートを這っている感じだ。
 走り始めて一時間ぐらい…。私は尿意に邪魔され、次第に地図を見る集中力を失っていった。目を閉じて眠る事もできない。時折うねりのような尿意が襲って来ては引いて行く。知らず知らず私は膝の上でロードマップを握りしめていた。
…Nさんの彼女もきっとこんな風に我慢していたのね…
 私は、彼女がとても可哀相で、そして愛しく思えた。会ったこともない人なのに、何だか身近に感じられる。今の私には、その時、彼女がどんな気持ちでこのシートに座っていたのか痛いほどわかる。遅々として進まない高速道路の渋滞は、彼女にとってさぞかし恨めしく思えた事だろう。私の脳裏で、一瞬、Nさんの彼女と大学入試で失禁した彼女とがオーバーラップした。
 曲がりくねった道を上りきると、その先は広大な高原野菜の畑の中を突っ切る一本道になった。もう少しで清里だ。もう少し…もう少し…。私はシートに座ったまま小さく足踏みしていた。じっとしていると漏らしてしまいそうだ。
 そんな私に不意打ちを浴びせるように、Nさんはジープを右折させて山道を上って行った。お茶する前に景色を楽しもうと言って連れて行かれた先は、八ケ岳山麓のスキー場だった。山の斜面を整地した段々畑のような駐車場から少し上がると、正面に大きな山小屋のようなセンターハウスがあり、中には売店やレストランがあった。私は真っ先にトイレを探した。
 そわそわしている私にお構いなしに、Nさんは何かのチケットを買っていた。リフト券だった。ここのリフトは、初夏から初秋にかけてのシーズンのみ、高山植物の鑑賞のために運行されているらしい。でも私にはそんな物を見ている余裕はない。
 Nさんはトイレを探している私にリフト券を渡し、リフトを登りきった所にもトイレがあるからと言って、躊躇する私をリフトの乗り場へとせき立てた。あと数分の辛抱…そう思って私は耐える事にした。
 リフトに乗る人はまばらで、私とNさんは4人掛けのリフトに2人で乗った。小刻みな振動が膀胱に響いて今にも漏らしてしまいそうだ。おまけに、ちょっと乗るだけで着くだろうと思っていたリフトは、想像以上に長かった。私は、Nさんを振り切ってでも下のトイレに入るべきだったと、今になって自分の優柔不断さを後悔した。
 どれくらい長いリフトなのかNさんに聞くと、彼はリフトの支柱に表示してある分数を示し、分母はの全部の支柱の数、分子は現在通過中の支柱の番号を表していると教えてくれた。それによるとまだ半分も行ってない事になる。おまけに標高が上がるにつれて急速に気温が下がってきた。麦草峠が暖かかったと思えるほどの寒さだ。
 やっと長いリフトの終点だと思ったのもつかの間、もう一本リフトを乗り継がないと頂上へは行けない事がわかった。私はあたりを見回したが、トイレらしき建物は見あたらない。あきらめてもう一本乗るしかなかった。
 激しい尿意が津波のように押し寄せてくる度に、私は冷たいリフトのバーをぎゅっと握りしめてやりすごした。それでもひっきりなしに津波は襲ってきて、私は上に着くまで我慢できないかもしれないと思い始めていた。後悔と自責の念がずしりとのしかかってくる。
 そして、やっと終点が見えたと思ったとたん…ついに私は力尽きた。冷たい風にさらされていた上に抵抗するのが無駄と思えるような激しい尿意のうねり…。抵抗むなしく私の尿道は強引に、そして静かにこじ開けられた。
「…あぁ…ぁ…ぁ…」
 止めようとすればするほど、私の体は高熱にうなされたように震えて止める事ができない。もう私にはどうしようもなかった。冷えきった体には熱く感じるほどのオシッコがみるみるうちにショーツを濡らし、スカートの中もお湯をこぼしたかのように温かくなっていった。
「……ぁ…ぁ……ぁ……」
 リフトのシートは後ろに傾斜しているので、ショーツから溢れ出たオシッコはそのまま私の内腿の間にたまり、内腿を濡らしながらじわじわと這い上がっていった。私の股のあたりは生温かいオシッコで池のようだ。やがて、内腿の間にとどまりきれなくなったオシッコは、私の脚の間から滴り落ち、下に生い茂る熊笹の葉に当たって乾いた音をたてた。
 リフトの降り場が次第に近づいてくる。私はリフトを降りるまでに一気に全部出してしまおうとしたが、ギリギリまで我慢していたせいなのか、私のオシッコは水道の蛇口を絞った時のようにしか出なかった。だからといって止める事もままならない。私は祈るような気持ちで漏らし続けた。
 終点に着いた時、半ば放心状態の私はNさんに支えられるようにして水浸しのシートから立ち上がった。その瞬間、内腿の間に溜まっていたオシッコはシートから勢いよく流れ落ち、スカートの奥からも幾筋もの細い流れが私の脚を伝って滴り落ちていった。リフト乗り場の係員は、信じられないような表情で私とシートとを見比べている。
 見上げればNさんの言うと通り、リフトの終点から少し登った所に山小屋風の建物があった。スキーシーズンにはレストランとして営業しているらしいその建物の入り口には、数人の観光客が見受けられた。
 間に合えばあそこのトイレに入っていたはずなのに…。この姿ではとても行く事はできない。冷たくなったスカートからはまだ雫が滴り、パンストには幾筋もの濡れた跡がくっきりと残っていた。私たちの後からリフトを降りた人達が、私に軽蔑と同情と好奇の入り交じった視線を投げかける。
 私は…私はとうとう人前でオシッコを漏らしてしまった。ショーツもパンストも…そしてスカートまでもオシッコでびしょびしょに濡らしたみっともない姿を…大人の女性として許されない醜態を人目にさらしてしまった。
 私はNさんに促され、濡れたスカートのままで再び下りのリフトに乗った。さっきの係員は一瞬迷惑そうな顔をしたが何も言わなかった。私は終始うつむいたままで駐車場まで歩き、Nさんのジープの中に入ってから堰を切ったように泣いた。悔しさ悲しさと恥ずかしさで、頭の中はいっぱいだった。
「これで気が済んだでしょ! こういう事がしたかったんでしょ!」
 私は泣きながらNさんに向かって言い放った。それは、Nさん昔の彼女の身代わりにされた悲しさや、まんまとNさんの術中にはまっておもらしした悔しさに加え、彼女との大切な思い出をこんな歪んだ形にしてしまったNさんが許せなく思えたからだ。
 別れる交換条件だったとはいえ、Nさんに付き合ってこんな所まで来てしまった自分にも腹が立った。もしもNさんの彼女がこれを知ったら、きっと私たちを軽蔑したに違いない。私はまたひとつ、罪を重ねてしまった事を実感した。
 泣きわめく私にNさんは何も言わず、黙ってジープを発進させた。私は高ぶった感情を持て余し、時折すすり泣きを洩らしながら揺られていた。気まずい雰囲気のまま時間だけがゆっくりと流れ、私が少し落ち着きを取り戻した頃は須玉ICまで来ていた。
 スカートや下着は相変わらずびしょびしょに濡れたままだ。Nさんのジープのシートはビニールレザー製なので中のクッション材まで濡らす心配はないが、それでも冷えて不快な事には変わりはない。渋滞の中をのろのろ走っている間も、私はおもらしした事を言い出せない幼児のようにじっと耐えるしかなかった。
 Nさんは談合坂SAの混雑を避けて、その先の藤野PAに入った。トイレ休憩だけならSAより施設の簡素なPAの方が空いている。と言っても、スカートが乾かなければ私はトイレに入る事もできない。着替えはあるけど、車内で着替えるわけには行かないし、もしも着替えてからおもらししたらもう着る物がない。しかも間の悪い事に、私はしばらく前から尿意をもよおしていた。
 どのみち私は、一度はこのジープのシートにオシッコを漏らさなければ済まない身の上なのかもしれない。でも、さっきのように歯を食いしばってギリギリまで我慢する気にはなれなかった。こんな状況に置かれたら、私でなくてもきっとそうすると思う。雨に濡れてから傘をさしても意味がないのと同じだ。
 せめてもの抵抗として、私はNさんがトイレに行っている間に漏らす事にした。男子トイレに入って行くNさんの後ろ姿を目で追いながら、軽く息を吐いて尿道の緊張を緩めると、ほどなく私の冷たい下半身にゆっくりと温もりが広がって行った。後で冷たくなると判っていても、おもらししている今だけは温かさが気持ちいい。
 私はそっとスカートを捲ってみた。じっとりと濡れていたショーツとパンストはまたオシッコにまみれて、少し広げた太腿の間は漏らしてしまったオシッコの水たまりのようになっている。スカートの裾は濡れているというより、オシッコの池に浸っているといった感じだ。私はスカートを元に戻して誰も見ていないのを確かめた。
 藤野PAから八王子ICまではたっぷり1時間かかった。その間じっとシートに座っていた私は、オシッコの水たまりに尻もちをついたような状態のまま、次第に冷えて行く気持ち悪さに眉をしかめていた。
 インターを下りた後、Nさんは私のアパートに行く前にどこかでホテルに入ろうと言った。彼の下心は見えていたが、私もこんな姿では帰りたくなかった。八王子IC近辺はその手のホテルが林立している。この際どんなホテルでもいいから、私はシャワーを浴びて着替えたかった。
 運良く最初に行った所に空き室があり、Nさんは迷う事なくジープを滑り込ませた。この時の私の下半身は悲惨の一語で、ショーツはもちろん、スカートは後一面がお尻の上の方までずぶ濡れだった。おそるおそるジープから降りると、ショーツやスカートに染み込んで冷え切ったオシッコが一斉に滴り落ちて、パンストに幾筋ものオシッコの跡を残していった。
 駐車場から点々と続くオシッコの跡が見つからないかとドキドキしながら、私はNさんの後に続いて部屋までの廊下を歩いた。風に舞うほど軽かったスカートは、たっぷり水気を含んでずっしりと重く垂れ下がる。ドアを開けると、私はまっ先にバスルームに向かった。
 濡れた衣服を脱ごうと手をかけた時、いつの間にか私の後ろにはNさんがいた。そして不意に私を抱き締めて、乱暴にバスルームの床に押し倒した。もとよりホテルに入ってタダで済むとは思っていなかったが、突然だったので私は小さな悲鳴をあげた。
 Nさんの手がスカート越しに私の股間をまさぐる。私は冷めた目でバスルームの天井を見つめていた。
 手の動きに合わせてスカートの裏地とパンストは衣擦れの滑らかな音をたてる。まだ濡れていなかったスカートの前までもが、ショーツとパンストの水気を吸って濡れ色に染まっていった。そして執拗なまでのスカート越しの愛撫に、いつしか私の体は反応し始めていた。悲しい性だ。Nさんは愛撫していた手を止めると、このままオシッコするように言った。
 またか…と思ったが、私には抵抗する気もなかった。落ちる所まで落ちてボロボロになってもいい…どうせ今日限りだもの。そんな投げ遣りな気持ちがあった。
 私はNさんから視線をそらしながら、そっと膀胱の緊張を解いた。たった1時間前にしたばかりだからそれほど多く出なかったけど、それでもショーツを温かくして、広げた脚の間に垂れ下がったスカートを濡らすには十分だった。
 クリーム色のスカートは、余すところ無くぐっしょり濡れて色を変え、上品で繊細だった細かなプリーツも、バスルームのタイルにぺったりと張り付いてしまって見る影もなくなっている。濡れたスカート越しにはうっすらと下のタイルの色まで透けて見え、これ以上ないような惨めな失禁姿だ。
 Nさんは濡れ落ち葉のようにタイルに張り付いたスカートをそっと捲り、ショーツとパンスト越しにあそこを愛撫し始めた。私のショーツはたちまちオシッコ以外の物で濡れてきた。こんなに惨めで恥ずかしい仕打ちをされているのに、私の体は心と裏腹にこんなにも感じている。悲しかった。
 濡れて脚に張り付いたパンストとショーツを剥がさされた私は、Nさんに抱き上げられてベッドに運ばれた。素足に濡れたスカートが触れて冷たい。そして私は、ずぶ濡れのままの惨めな姿でNさんに抱かれた。この惨めで悲しくて激しいセックスは、Nさんと私を獣にした。終わってみて、こんな異常な形で感じてしまう私の体がうらめしくさえ思えた。
 シャワーを浴びて体の火照りを鎮めながら、私はやっぱりNさんとはもうこれ以上お付き合いしてはいけない…そう思った。

 その日限りで私はNさんと別れた。そしてその日以来、私はNさんと一度も顔を合わせていない。ただ、数日後にNさんから写真のネガとプリント、ビデオテープが宅配便で送られて来ただけだ。私はそれらを段ボール箱に押し込んで目の届かない場所に厳重にしまい込んだ。当然、おもらしからも遠ざかった。
 やがて季節は巡り…就職活動の時期。私は、第一希望だった大手都市銀行の不採用を皮切りに、不採用通知の山を築いた。卒業間際になって、やっと個人病院の事務職を得たものの、経営不振で1年後にはお払い箱になった。
 そして新聞広告の求人欄でバイトとして入ったのが今のモデルプロダクションで、その半後、正社員の子が結婚退社したのと入れ替えで正規採用になった。
 人生に”もしも”は禁物だけど…もしもあの時に正社員にならなかったら…。もしもあの時にビデオ出演を断っていたら…。私の人生はどうなっていただろう…。優柔不断な性格が災いして流されてばかりいたけど、そろそろ人生の中間決算をしなければいけない時期かもしれない。
…そうよね…そろそろ踏みとどまらないと…
「はい! カットォ」
 監督の声に私は我に返った。見下ろせば、オレンジ色のミニドレスは私が漏らしたオシッコに濡れて、裾の方からグラデーションがかかったように色を変えている。お尻が冷めたい。でも撮影はこれで終了だ。スタッフの間にも安堵のため息が洩れる。
 私はその場に座ったまま、ぐしょ濡れのドレスの背中に手をまわしてファスナーを下ろした。袖を抜いて立ち上がると、脱いだドレスは私の足元でオレンジ色のバラの花のように広がった。スタッフの一人が素早く片付けてビニール袋に入れる。
 私が着替え終わって戻る頃にはスタジオの床もきれいに拭かれて、すっかり元通りになっていた。私がおもらしした痕跡は何一つない。あるとすれば、私が持っているビニールの小袋の中の濡れたショーツとパンストだけだ。その、おもらしの証拠品を衣装担当のユイちゃんに渡す。いつものようにドレス共々売り物にするそうだ。
…やっぱり、おもらしを仕事にしちゃいけない…
 セックスを仕事にしたくないと思って裸やカラミの類の仕事を断ってきた私だったが、考えてみれば日々の生理現象を仕事にする事だって五十歩百歩だ。
…やっぱり辞めよう……辞めて…また出直そう…

 私は帰りの電車に揺られながら次第に決心が固まって行くのを感じた。取り合えず、来年になったら実家に帰って職探しだ。仕事が見つからなかったら家業を手伝ってみるのもいいと思っている。いずれにしても、もう…ここへ戻らない。
 アパートに帰ると、私は押入の中から例の段ボール箱を引きずり出した。その中にはNさんから送られた写真やビデオテープをはじめ、彼が私のおもらしを撮るために買った洋服、やり取りした手紙など、Nさんにかかわる物を詰め込んである。
 別れてから3年。過ぎ去った過去として割り切るか、苦い過去の思い出として処分するか…。いずれにしても、封印したままのどっちつかずの状態にしておく事はできなかった。出直す前に真っ先に精算しておきたかった過去の遺物だ。
 写真とビデオテープは迷う事なく捨てる事にした。こればっかりは過ぎた過去として割り切ったとしても、持っているにはリスクが大きすぎる。手紙ももちろん捨てた。私がおもらしビデオに出ていたと知ったら…Nさんはどんな顔をするだろう…。私は苦笑しながら手紙の束をゴミ袋に放り込んだ。
 3年の月日は思っていた以上に私を寛容にしていた。今になって振り返れば、Nさんとしていたおもらしプレイも懐かしく思える。もう一度やろうとは思わないが、それもまた、一つの思い出といったところだ。
 Nさんに買ってもらった衣服の一着一着にも、それを着ておもらしした日々の思い出が染み着いている。いい思い出ばかりじゃないけど、それでも私は割り切って、それらの服はすべてNさんからのプレゼントだったと思う事にした。
 最後に私は段ボール箱の底から一着の制服を出した。ミディアムグレーのブレザーとモスグリーンのプリーツスカート。白いブラウスにボトルグリーンとシルバーのストライプのネクタイ…。これは私が通っていた女子校の制服で、それまではセーラー服だったのが、私が入学する年から変更になった。
 私の制服姿のおもらしが見たいとNさんに頼まれて実家から持ってきたものの、どうしても彼の前で着てみる気になれなくて、持ってくるのを忘れたと偽って着なかった。別に制服を汚す事が嫌だったわけではない。ただ、何となく心に引っかかるものがあってNさんの前で汚す気にはなれなかっただけだ。
 高校を卒業して…もう7年…。私は少しためらってから防虫剤の匂いが残るその制服に袖を通した。何となく照れくさい。スカートのウェストが少しだけ緩くなっていたのが嬉しかった。
 私はドキドキしながらドレッサーの鏡に姿を映した。今時の高校生ほどではないにしろ、この制服のスカートもかなり短かく詰めてある。ただ、いくら私が童顔だといっても20代半ばになってしまっては高校の制服は似合わない。それでも防虫剤の匂いが薄らいで行くにつれて、気持ちだけは高校時代に戻っていった。
 わざとオシッコを我慢してドキドキしながら授業を受けていたあの頃…。おもらしした自分を想像しながら電車に揺られていたいたあの頃…。この清楚な制服に身を包んだ私は、そんないけない事を考えていた高校生だった。
…おもらし…してみようかな…
 少し前から尿意を感じていた私は、トイレに行きかけた足を止めて、ふと、そんな事を思い立った。誰のためでもない…。まして他人に見せるためでもない…。私だけの…たった一人だけのおもらし…。突拍子のない思い付きだけど、それは私が「冴島美紀」という私を捨てて「鹿島美由希」に戻るるための大切な儀式のように思えてきた。
 今になってみれば「冴島美紀」という私は、ただ単に失禁モノのビデオに出るためだけの仮の姿だったとは思えなかった。その根底には、試験中に失禁してしまった彼女やクルマの中でオシッコを漏らしてしまったNさんの彼女のように、私自身がおもらしした惨めな姿をさらす事で、彼女たちに対する贖罪にしようという考えがあったように思えてならない。彼女たちと同じ境遇に自分を置く事で、私が彼女たちに対して感じていた負い目とか、罪悪感を精算しようとしていたように思えてならない。
 そう…今になって思えば「冴島美紀」という私は、私が彼女たちに対して抱いていたコンプレックスそのものだったような気もするし、或いは、自分のおもらしを正当化するための大義名分だったような気もする。
 でも、仕事を辞める決心をした今、私「鹿島美由希」も、おもらしが嫌いじゃない…という事に改めて気が付いた。おもらしの妄想こそしないけど、私の中身は高校時代のあの頃とそれほど変わっていない。
 高校時代の妄想に始まり、女子大の入試では本物のおもらしを間近に見てショックを受けた。そして、雪の日に初めてのおもらしを経験して、西伊豆では浜辺で立ったまま水着の中にオシッコを漏らした。やがてNさんと出会い、彼の前で着せ替え人形のように何度も着替えては、おもらしして汚し、やがてそれが副業になってしまった。
 数知れずおもらしを経験したけど、これからしようとしているおもらしは、今までのどんなおもらしよりも胸がときめいている気がする。仕事でもない、贖罪としてでもない、私自身の快感のためのおもらし…。
…ずいぶん回り道した気がするわ…
 私はしばらくためらってから、制服のまま部屋のドアを出た。夕刻の薄闇は高校生に化けた私を隠してくれそうだ。それでも何となく不安で、私は自転車で走り出した。人とすれ違う度に、何となくいけない事をしているような気がして妙にドキドキしてしまう。入学式の朝、初めてこの制服を着て家を出た時も、どことなくよそよそしくて借り物の服を着ているような感じがしていた事を思い出した。。
 路地をわたる夜風が肌寒い。思えばこの季節に素脚でミニスカートなんて高校以来だったかもしれない。風を受けてひるがえったスカートを慌てて手で押さえる。そういえば自転車通学の子も、風の強い日はこんなふうにスカートを押さえていたっけ…。何でもない高校時代の日常の光景が脳裏に浮かぶ。
 街外れの公園のあたりまで来た時に、私は顔に雨粒が当たるのを感じた。そういえば天気予報では夕方から雨だと言っていた。雨の公園で雨宿りしながらおもらしするのも悪くないが、夕立ちのような通り雨ではない。ここは無難に戻った方がよさそうだ。
 ぽつりぽつりと降っていた雨は私が部屋に帰る頃には小雨になり、やがて本降りになっていった。乾いたタオルでうっすらと濡れた髪を拭き取っていると、不意に尿意が突き上げて来るのを感じた。昼間の撮影で水分を摂り過ぎているから時間のわりに膀胱にオシッコが貯まるのが早い。
 私はダイニングチェアに腰掛けると静かに目を閉じた。雨音が低いノイズのように耳の中を満たす。そういえばあの日もこんな雨がずっと降っていたっけ…。私はあの入学試験の日を思い出していた。不意に私の耳に届いた水が滴る音…悲しげに震える彼女の小さな肩…うつむいたまま退席する彼女…。ぐっしょり濡れたスカートから落ちる透明な雫は、彼女の涙そのもののようにに見えた。
 彼女があの女子大に合格したのか不合格だったのか…今の私には知る由もない。でもおもらしするまで我慢していたのならたぶん…最後の方の科目は全滅だったと思うし、もし合格していても入学する気にはなれないだろう。願わくば彼女にとってあの女子大が単なるすべり止めで、他の本命の志望校に合格していたと思いたい。
…私が代わってあげられればよかった…
 今までに何度そう思った事か…。懺悔にも似た私の想いは、いつしかあの日の入試会場に飛んで行った。紙と鉛筆が擦れる音と、雨の音とが奏でる無機質なシンフォニー。今、私の前にはあの日の情景がありありと浮かんでいる。もちろん私の斜め前に座っているのはあの制服を着た彼女だ。濃紺のプリーツスカートから伸びた脚が小刻みに震えている。
 試験を棄ててでも途中退室するべきだったのに…それができなかった彼女…。きっと真面目な子だったに違いない。そして、誰よりも先にオシッコを我慢できなくなってしまった可哀想な彼女。ただ運が悪かったでは済まされない悲しい失敗…。

…もう少し我慢してね…今…トイレに行かせてあげる…
 答案用紙を見つめながら、私は少しづつ尿道の緊張を緩めていった。生温かい感触がゆっくりとショーツを浸して行くにつれ、張りつめていた膀胱の苦痛も春の淡雪のように溶けて行き、その心地よさは自制心さえ失わせた。そしていつしか私は膀胱の圧力のままにオシッコを漏らしていた。
 雨音を押しのけて耳に飛び込んでくる、床を叩く鈍い断続的な水の音。一瞬の静寂…背中に感じる視線…波紋のように広がる静かなざわめき…。やがてそれも雨音に呑み込まれて消えていった。
…おもらし…しちゃった…
 虚ろに開けた私の目にプリント合板のダイニングテーブルの天板が映る。…夢…??そう…夢…だけど…半分は夢じゃない。だって…今も椅子から落ちる水滴が足元の床で弾ける音がしてるし、ショーツもスカートも濡れたまま…まだ温かい。
 今…私は、Nさんの前でこの制服を着ておもらししなかった理由をはっきりと思い出した。そう…私には、こんな日が…こんなふうにおもらしする日がいつか来るような…そんな確かな予感がしていた…。
 あの遠い日々…心に残した小さな…後悔という名の忘れ物。それは、決して手の届かない…時の彼方に置き去りにされた忘れ物。
 半分は夢の中だったけど、私はその忘れ物にやっと手を触れたような気がして、私はまた、ほんのりと残った制服のスカート温もりに身を委ねて目を閉じた。

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