ふたなり姫の処女


 豪華な城の一室。レースのカーテンに包まれた天蓋付きベッドの上で、年若い男女が仲むつまじく抱き合っていた。一人はネクオマットという小国の王女、クリプトシア姫。いま一人はインカムイというやや大きめだけどやっぱり小国の第二王子、アルバート王子。
 こうやって二人で一夜をともに過ごすことが、もともと一つだった彼らの国の伝統的な婚前儀式だった。二人はともに15歳、大人として国政の一端を担うには十分な年齢だ。
 だが、アルバート王子の方には少々その自覚が足りなかったかも知れない。
「怖いわ…」
「なにがそんなに怖いの?」
 アルバート王子は刺さりそうなほどのまつげが反り返る目を優しそうにたわめて、クリプトシア姫に微笑みかけた。花も色あせ鳥も歌うことを止めるほどの優麗な顔は、姫の心をとろけさせるに十分な威力を持っていた。
「わらわは…わらわは幸せが怖い。あなたとこうして結ばれる夜を何度も夢に見てきた。でも本当に、あなたの国とこうして和睦して、そしてあなたの妻として迎え入れて貰えるなどと…」
 正確に言うと事情は少々異なる。両国の不仲は先代からの相続負債のようなもので、彼らはここ数年ほど慢性的に小さないさかい程度の戦争を繰り返していた。だが、クリプトシア姫の父王の代になってその事情が変わる。父王は、両国の先代王間のいがみ合いがなんのメリットももたらしていないことに気づいていた。
 これは先代達のいさかいであって、現インカムイ国王と自分の間そのものには遺恨は無いのだから、適当に謝って仲直りした方が得だろう。そう考えたのだ。
 そのための方便としての縁談である。つまりは人質というやつだ。
 アルバートとクリプトシアは、両国がまだ仲の良かった時代に産まれている。幼少時代はよく遊んだものだ。彼らが7歳の時、彼らの祖父つまり両国の王同士が喧嘩して国交は耐えた。
 そんでもって7年後、両国王はまるではかったように病死。それから今に至る。
「…そう、そうだね。君の国とあのまま戦争し続けていたらこうやって君と抱き合うことすら叶わなかったはずなんだよね」
「怖いのじゃ…アルバート。朝起きたらあなたが居なくなってしうのではないか、今抱きしめているあなたの体が煙のように消えてしまうのではないか…と」
「バカだね…僕のクリプトシア姫。君のその月よりも美しい御髪に誓って、僕の父から貰ったこの名にかけて、そんなことはあり得ないさ」
「…うれしい」
 クリプトシアは一言つぶやいて王子の胸に顔を埋めた。戦争が始まって以来、最低限の手紙のやりとりだけだったアルバートがいま自分の肩を抱いている。優しかった7歳の王子が、今や男のたくましさを備え始めた両腕で、いっそう優しく彼女を包みこんでいる。
 ハーブの落ち着く香りが体臭と混じって漂い、王女は頬を染めた。アルバートの手が自分の体を撫で、あまり立派ではない胸を隠す布を静かに外す。汗の匂いと微かに震えるアルバートの手に緊張が感じられた。自分の緊張も伝わってしまっているのだろうかと考えると少し恥ずかしかった。
「アルちゃん…あなたは今でも昔のままのアルちゃんなのだな…」
「そうだよ…昔はたまにしか会えなかったけど…これからはずっと一緒にいられるんだよ。クリプトシアちゃん…」
 王女は省略しにくい名前だった。
 王子の手が下腹を覆う布も取り去る。するりと臀部を通過して、王女の股間へと指が這う。
 ぐにっ。
「ぐに?」
 アルバートの手が、王女の秘所で握り覚えのあるシロモノを握った。王子といえども一人で楽しみたいときぐらいはある。そんな時にるアレと似ていた。つまり、ナニである。
 アルバートはひとつ試しに握ってみることにした。
 ぎゅう。
「あんっ…」
 ナニは熱くたぎっていた。
 何かの間違いかと思ってつまんでみても同じ結果だった。
「ぬっひょぉろろろぉろぉるりゃぁ〜!!」
 まるでスットンキョウの見本市をまとめて燃やした煙をうっかり吸い込んだソプラノ・コロラトゥラのようにカン高い声を張り上げて、そのまま王子は部屋の窓から飛び出していってしまった。城の3階にある部屋だったが、窓の下は広い湖なのでおそらく無事だろう。裸で飛び出したことも幸いしていたかもしれない。
「あ…アルぅーっ!」
 姫の悲痛な叫びを着水音がかき消す。
 ぢゃっぽーん。
 二日後、インカムイ国の第2王子は周囲の反対を押し切り有無を言わさず涙目で出家した。
 これが、50年の苦行の後に悟りを開き偉大な聖人とあがめられることとなる男の始まりだった。
 ただしもちろん、この話の主人公は姫の方である。

 翌日。
「こんのクソオヤジぃぃぃぃぃーっ!!」
「ああっ、王様が!」
 謁見業務の真っ最中、突然王女が青筋立てて乱入。走り込みざまに王の顔面に向けて跳び膝蹴りを放ったところを王様が非常脱出スイッチを押して回避。
 玉座の下部がぱかっと開いてチューブ状の通路に落下し、城の裏手に現れる仕掛けだ。
 後にはただ一枚の紙切れがヒラヒラと舞っていた。
 それにはこう書いてある。
『我が愛する妻よ、あとをよろしく』
「おほほほほほほ」
 王妃が怖い顔で笑いながら紙切れをぐしゃりと握りつぶした。
 まず側付きの大臣が青ざめて逃げ、それを見た近衛兵が一目散に逃げた。
「お母様、お母様は知って居られたのであろう?」
「な…何のことですか?」
 しれっととぼける王妃に対して、次の瞬間、落雷もかくやという大声が謁見の間を揺るがした。
「わらわにチンコついてるってことじゃあーっ!!」
 恋に破れたばかりの乙女ほど自暴自棄な奴はない。と、その場に居合わせたユーコン国大使の一人は後に語った。

 そんなこともあって、王女はグレた。頭髪にパーマを当てて、足首までの長いスカートをはき、ごてごてとアクセサリーを着けて、化粧も濃くなった。
「あら、よくお似合いよクリプトシア」
 普段の格好から大して変わらなかったようだ。
「ですからお母様! わらわが言いたいのはどうして普通の女の子はチンポコついてないのだと、一言教えてくれなかったかって事じゃ!」
「…」
 その言葉を受け、王妃は両手で顔を覆った。王女に背を向け、ふるふると肩を震わせる。
 クリプトシアは言葉を失った。顔を覆う母の手の間から、ぽたりぽたりと床に落ちるものを見てしまったからだ。まさか自分の言葉がそれほどのショックを与えるとは思っても居なかった。何しろ我が子の事なのだ。どうしようも出来ない事実に最も苦しんだのは両親ではないのか、彼らを責めても解決はしない。
「お…お母様、ごめんなさい…そんなつもりで言ったのでは…」
「…ま…まだ…あなたが…」
 懸命に堪えているのだろうか、震える声で絞り出すように王妃は言葉を綴る。
「そのことに気づいていなかったなんて、我が子ながらなんてオモシロ可笑しい…」
 王妃は涙を流して笑っていた。立場がら、大声で下品にゲラゲラ笑うわけにはいかない。度を超した笑いの衝動に駆られたとき、そしてそれを押さえ込もうとしたとき、人はこうなってしまう。したたりおちる涙の中には、おそらくよだれも混じっていよう。
「なっ、お母様! 姉妹も居らねば側小姓も皆小さな男の子ばかりで、どうやって普通の女の子にはチンコついてないなんて知れと言うのですじゃ!」
「…く…くるしい…女の子がチンコついてないですって……くぅ…ぷ…ぷぷぷ…」
 一度笑い始めた人間には大抵のことなど言うだけ無駄である。何もかもが笑えてしまってしょうがないのだ。ましてや普通は女の子の口から出てこない台詞なのだから、それだけで立派なコントだった。
「ぐぇほげほげほげほーっ!」
 王妃はとうとう耐えきれずに笑いむせた。
 そんなわけで王女の心は加速度的に荒んでいった。

 すっかりふてくされてしまったクリプトシア王女は、王宮の図書室の書架にある膨大な量の古文書類をサクサクと並べ替えていた。
「お父様も! お母様も! わらわのことなどどーでもよいのじゃ! ふんっ、だ」
 嫌なことがあると、彼女はいつもここに来た。先史図書館プロジェクトといって、この部屋には先史文明の古文書が集まってくる。年に数回発掘キャラバンが落としていく古文書で、この部屋は常に散らかっていた。それをきちんと整理整頓していくことが、彼女にとってのグルーミングなのだった。
 整理整頓フェチ、いや、もはや依存症と言ってもいい。ホコリ臭く、カビ臭く、そしてウサン臭い古文書の壁が、クリプトシアをこのうえなく和ませるのだ。
「あっ、また迷子の本! ここは触手文学の棚じゃぞ? んもう、閲覧した図書はキチンと戻すように学院の方にもきつく言っておかねばならぬな」
 言いながらもどことなく楽しそうな王女であった。本が一冊整理される度に、彼女のストレスが少しずつ昇華していく。一冊、また一冊と本が在るべきところへ納まるごとに、快感がちくりと背骨を走り抜ける。半ば恍惚とした表情でクリプトシア王女は次から次へと本を手に取っていった。
 だが次の本へ手を伸ばしたとき、本のカバーからやたらしっとりとナマ暖かい触感を覚えて彼女は手を引っ込めた。
「いや…なにこれ…動物の肌の装丁? 一体なんの本じゃ…えーと、タイトルは『ねくろん=おにおん』って新種タマネギの栽培法かのう?」
 他意はなかった。ただ、自分になんともいえない不快感を与えるこの本の正体が気になっただけだった。どうせ中に書かれた字など読めもしないのに、ふらふらと彼女は本を手にとってページをめくる。意識がやたらと明瞭になり、読めないはずの文字が音となって頭の中へ直接流れ込み始めた。無意識のうちにクリプトシアは小さな可愛い唇を半ば開くと、虚ろな目で、もごもごと舌をもだえさせ始めた。
「いあ…いあ…」
「この城に邪悪な気配を感じまする!」
 ユーコン国からの大使と身分を偽ってまで王の前へ進み出た一人の女性は、息せき切って開口一番そう言い放った。
「それはむちゃくちゃでごじゃりまするがな」
 王はアチャコの物マネで返した。
 スパァン。
 どっ。
 『まするがな』の『がな』の部分が終わるか終わらないかぐらいのタイミングで、王の頭を王妃がハリセンで殴った。夫婦の愛を感じる絶妙の間だった。その後の『どっ』は一同の笑いを示す擬音である。
 女性は反応しきれずぼーっとしていた。
「その者を牢へ」
「次」
 側付きの大臣たちが矢継ぎ早に指示を出す。唐突な夫婦どつき漫才を目にして呆けている間に、彼女の決死の訴えは失敗に終わった。両側から衛兵に押さえつけられて、彼女は地下の牢へと連行された。
 その女性は、呪術師だった。彼女は知っていた。今この城を襲わんとする邪悪な意志の存在を。
 大使を詐称してまでそのことを知らせようとしたのだ。
 だが、彼女は知らなかった。
 アチャコが誰かと言うことを。
 それが致命的だった。

 恍惚とした目のクリプトシア王女が、右手に本を掲げ、左手の中指をおっ立てて、三度目の呪文を唱え終わる。
『……フン喰らいも…狂う夏服と瓜で…売り家に穿つ殴るは…古田君!!!!』
 エクスクラメーション・マークを四つも付けた割にはずいぶんと締まりの悪い召喚呪文が、たどたどしくも軽々しく唱えられる。
 とたんに王女の視界は揺らいで上下感覚が反転し、また反転し、ぐるぐる回る。それがようやくおさまったとき、正気に返った王女の目の前に一匹の怪物が現れていた。
 ………。
 基本的に人間の女性の姿だが、頭には二本の角を生やし、背中には猛々しい翼を生やしている。よく見れば爬虫類のものらしき尻尾も持っており、そして全身がネトネトとした粘液で覆われていた。
 怪物妖女は知性の宿った目で王女を睨み付けると、一言。
「我が名はヌト竜」
「は?」
「封印解除、感謝する。礼としてヌシの望みを叶えてやろう」
「はぁ」
「どうした」
「それでは、世界を我が手に」
「承知した」
「冗談じゃ」
「こっちも冗談だ」
 世界は平和であった。

 テキパキと投獄された妖しげな格好の女呪術師は、鍵が閉まるよりも早く鉄格子に取りついてソレはモウ大騒ぎ。
「出せぇーっ、ここから出せぇーっ! おいっ、手前ェッ、そこの牢番! フェラしてやるからここから出せ!」
「だーっ、取引もクソも無しに叫ぶな! 外まで丸聞こえだろうが!!」
「なにをっ!! このわしの爆裂究極フェラの味といったら貴様のチンコなんぞ二度と勃起しなくなるほどキモチヨイのだぞ!」
「そんなフェラなどいらんわッ」
「なんだとっ、まさか尻をかせというのか!? いやーっ、助けてーっ、犯されるーっ!!」
「ちったぁ自分の発言に責任持ちやがれェ!」
 こんな感じなのだった。

「…それで、お前は一体何が出来るというのじゃ?」
 ヌト竜と名乗る妖女は意味ありげに王女のつま先から下半身を睨み上げると、不意に視線を宙に飛ばし、にやりと口元を歪めた。
「そう…例えばチンコを生やしたり引っ込めたりとか、かのぅ」
 クリプトシアの目が輝く。これで普通の女の子に戻れるのだと、パーティーでやけくそになって『ちょんまげ』とか芸を披露しなくても大丈夫な身体になるのだと、ましてや勃起したところにヤカンを吊してどれだけ水が入るか試すなんて言語道断、挙げ句の果てに水量をマスではかって数値化し『朝立ち力』を毎日記録することなどアニハカランヤ、輝く未来を見いだして潤む少女の瞳がヌト竜の股間で生えたり引っ込んだりしている巨根へ釘付けになる。
「ほれ」
 どうかしたのかという表情の妖怪女。
「…そうよのう…どこか変だと思いながらも期待しちゃったわらわのなんとご愁傷サマなことか…」
 もはや涙すらちょちょぎれない。
 アメリカンクラッカーでも欲しい気分だった。
「で、オヌシは何をわしに望むのか?」
「ナニって、わらわはこの女子らしからぬチンコをどうにかして欲しいだけじゃ…」
「足りぬのか」
「…余っとるのじゃ」
「皮がか?」
「サオも余計じゃ!」
「ニューハーフになりたいのか」
「もとから女じゃぁーッ!!」
「だから冗談だ」
 世界はまだまだ平和であった。

「もがもがもーもがもがぁッ!!(爆裂究極フェラぁッ!!)」
「ぐああぁぁーッッ!」
「もがもがもがもがもがもがもがもがもがもがもがもがもがもがもがもがもが(オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ)」
 ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
 ドッシャァァァァァァァァァー!
 射精らしからぬ快音を轟かせ、一面精液の海と化した地下牢にまた新たな精液が注がれた。三人目の衛兵が、ごぽごぽと音を立てて白濁半透明の海に幸福絶頂の表情で沈む。
「ふっ、遠くアシハラはオクヒダ・マウンテンズの奥地で会得したる爆裂究極フェラの妙技を見たか!」
 爆裂究極フェラ、今となっては古文書にその名を残すばかりとなった失われた性技の一つである。この技を受けた者は、少なくとも7年はヌかずとも朝立ちすらしなくなると言う恐るべき愛撫なのである。その昔、時の皇帝が女宮に勤める宦官の臨時雇いに対して性欲を制限するために開発させたとも言われるが、その発祥は定かではない。後の世では、この技によって性欲が減衰した男子の覇気が乏しくなりがちだという理由で政府によって禁じられたことすらあったと伝説は言う--------民明書房館『絶技!!淫者虎萬道』より。
 勝利の余韻に浸る女性は、ふと我に返ってコブシを目の前に突き出した。
 手首を見つめ、勝ち誇って笑う。
「まだこんな時間か、余裕で間に合うわ。我が宿敵よ待っていろ! いやーっはっはっはっは!!」
 一糸纏わぬ姿の女呪術師が呵々大笑する。異臭と精液の満ちた地下牢に高らかな笑い声がいつまでもこだましていた。
 世界はそろそろ平和が乱されそうだった。

「ここであったが百年目、ヌト竜! 貴様の悪運もここに尽きたり!!」
 いろいろスッ飛ばした女呪術師が全裸で書庫へと現れる。スッ飛ばしたのは主に羞恥とか常識とかいう人として必要最低限のものが多かったが、そんなこと彼女にはお構いなしだ。
「…」
 半泣きの王女は肩で息をしながらヌト竜と裸女を見比べる。半竜人の女は全身を良く分からない液体でネトネトさせており、全裸の女は白く濁った分かりやすい粘液で全身をネバネバさせていた。
「ヌト竜とやら、お友達が来たようじゃぞ」
「変態の知り合いに心当たりはない」
「そちらに無くともこちらにはある! 貴様、忘れたとは言わせぬぞ」
 顔を紅潮させ、リキんで雄叫ぶ謎の裸女。びしっとヌト竜を指さしてさらに続ける。
「…あれは10年前のことだ。わしがまだ14歳で処女で無垢でオトコなんか口でしか知らない清らかな体だったころの話…」
「…」
 あえて誰もツッコミを入れようとしない。
「前略ある日わしは倉庫の中に落ちていた一冊の本をふと手にとった。中略気が付くとヌト竜とか言う化け物がわしの純潔を奪っておった。そう、貴様だ!」
「我はここ数百年ほどずーっと埋もれていたぞ。おそらくそれは、増刷版ヌト竜であるところの我が姉妹であろう」
「んなコトぁ知っておる! わしの名はヌト竜ハンターQ、各地を回って貴様のコピーを片っ端から狩り集めておるのだ!!」
「ほう…我を狩るというのか。面白い、ならば勝負だ!」
 二人の視線が王女の下半身に向いた。
「…へ?」

「ちょ、ちょ、ちょ…ちょっと、ナニをするのじゃ! やめんか! どーしてそうなるのじゃ!! オイッ!!」
 あっというまに羽交い締め、前から歩み寄る裸女がいきなり王女の衣服を破り取る。ぷるるんと未熟な両胸が掘り出されるが、あまり揺れない。
 同時に、そこそこ大きなナニもぽろろんと放り出された。
「わしはこちらを責める」
 いきなりの宣言。すると背後のヌト竜が羽交い締めを解き、背中に残っていたドレスを一気にずり落として言った。
「よかろう、我は淫穴を責める。数多くイカせた方の勝ちで良いな?」
 あまりのことに棒立ちとなる王女の股間の後ろから、ヌト竜の硬直した巨大な亀頭が顔を見せる。ペニスの上部でズルズルと王女の局部を擦りながら後退し、尖端が外陰唇をかき分けたところで停止する。
「…や…やめ…はぁっ…」
 弱々しい抗議は、裸女が王女のナニを握ったことで途切れた。王女はビクリと腰を震わせ、両手がペニスをさすりあげる快感に抵抗もできなくなってしまう。
「位置に着いたな?」
「よぉーい」
「ドン」
 かぽっ。
 ずぷっ。
 妙に間抜けた掛け声で王女の純潔はあっけなく失われた。

 翌日から、王女は自室へふさぎ込むようになった。
 しかし早くも翌々日からは元気な顔を見せるようになった。
 そして三日目には、クリプトシアの顔から一切の迷いが消えていた。人生を悟った顔と言っても良い。
「お父様、お母様…………わらわはもう悩みませぬ」
 生まれ落ちたその瞬間からして既に踏み違えていた人生を、彼女はありのままに受け止めようと決意した。なにがあろうと、強く生きるのだと。
「お母様!」
「え…ええ?」
 珍奇なほどに元気な娘を前にしてたじろぐ王妃。
「お母様からもらったこの体、クリプトシアは感謝しております!!」
「そ…そう? それはよかったわ…」
「お父様!」
「う…うむ」
 やっぱりたじろぐ似たもの夫婦。
「クリプトシアをお作り下さってありがとうございます!!」
「まぁ…その…もう二三人作ってやっても別にわしはヨイのだが…」
 娘の気勢にオロオロしてしまい良く分からない返事を返す王様。どっちもどっちだ。
「クリプトシアは悟りました。この体を与えたもうた神のご意志を!」
「さ…左様か…」
「そ…それはよかったわ…」
 彼女は大仰な身振りでクルリとひと舞。夢見る乙女の瞳に戻って天井を仰ぎながら熱っぽく言った。
「男と女の快楽を同時に味わえるなんて……わらわはなんとステキな肉体を持って産まれたものか!!」
 なにが彼女をここまで変えたのか。
 言うまでもない、あの一夜の出来事に決まってる。
 男根へ常軌を逸した快楽を与える奥飛騨フェラ職人。
 女穴へ人外の悦楽を注ぎ込むイニシエの淫魔ヌト竜。
 二人が、彼女に何をして、その後どこへ消えたかは未だ不明だ。
 ひとつだけ、後世に真偽定かならぬ逸話が残された。そこに彼女の痕跡を見出すことが出来る。
 この話から50年が過ぎ、後に『キーナフの悪魔』と呼ばれる邪教の母体となる宗教が設立された。男女の混交が宇宙的エネルギーの統一をもたらすという分かったような分からないような教義を掲げ、淫猥なる邪教として一世を風靡することとなる。教祖は、男でも、女でも、それどころか男女同時にすら愛せる肉体を有し、いつまでも若さを保っていた、と。
 そう伝えられる。
 ただしもちろん、この話の幕はここで下りるのであった。

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