少女鬼畜輪姦その2


「まったく、このまんま放っとかれたら死んじまうだろうに」
少女が連れ込まれていた広間では、さすがの屈強な男たちも文字どおり精も根も尽き果てたのか、ようやく開放された少女が、使い捨てられた雑巾のように精液まみれになってうち捨てられていた。それを、真っ黒な蝶々をあしらってある動きやすそうなツーピースを着た一人の小柄な女性が数人の男に何やら命令して、浴場のある小部屋へと運ばせた。
「デリカシーってもんが欠けてんね。相手が人間だって事を忘れてんじゃないのかい、お前ら?」
 ぶつくさ文句を言われながらも、男たちは何も言い返さずにおとなしく指示に従っていた。小柄な女性の、そのせいでまるで猫のように思わせる大きな吊り上った目を備えた小さくまとまっている可愛らしい彼女の顔を、時折ちらちらとものいいたげに見やる男もいるが、しかし強烈な自我とナイフのような雰囲気を持ったその目で睨み付けられると、慌てて目を伏せる。
「でも、シュレードの姉御。こいつ大丈夫ですかね、いつぞやの娘みてぇに舌噛んで自殺なんて真似は・・・」
「だからうちの宿六が水ワームなんて汚らしいモンスターを使ってまで堕としたんだろう? 信じられないね、あんな物を・・・」
 盗賊団の頭を宿六呼ばわりもないものだが、ヘビやトカゲ、昆虫などグロテスクで非人間的な生物のたぐいを大の苦手としているトッザの妻、シュレードはそういって大袈裟に体をすくめてみせた。
「俺が、どうしたって?」
 サインの拷問風景に辟易して部屋から出てきたトッザが、幾分青ざめたような顔で自分の若妻の前へと現れた。シュレードは自分の夫でもあり、男どもを取りまとめている頭でもあるトッザの姿を見つけると、普段から野蛮な男たちになめられないよう一生懸命張り詰めさせている気持ちが緩んだのか、ほっとして一瞬だが父親の腕に抱かれる少女のように信頼した笑顔を見せた。といってもまだ20歳も前半の彼女は、その中に少女である部分を持ち合わせていないわけでもなかったのだが。
 ともあれまだ部下達の前だ。すぐさま気持ちを切り替え、キッと再び目尻を吊り上げて怒鳴る。
「なんでもないさ、ほら、女の子がお風呂に入ろうってんだ。とっとと出ていきなよ」
 手近にあった竹の手桶を投げつけ、ぐずぐずとその場に残っていた男たちをトッザもろとも追い出し、誰もいなくなったことを確認すると自分も黒いツーピースを脱ぎ始めた。
 上下の衣服を脱ぎ捨て、全裸になり、そして少女を両手で抱えあげた。体重は自分と同じ程もあるだろうに、多少ふらつきながらも何とか洗い場へと運び込み、滑らかな岩肌を利用して作った風呂の脇へとおろす。
「ふん、世話をやかすねぇ。このお嬢ちゃんも」
 言いながら、手桶にお湯をすくうと少女の汚れた体にかけてやり、体を洗い始めた。温かいお湯を全身に浴びて、シュレードの手により男たちの排泄物が全身から洗い落とされる。
(こんなに・・・野郎どもに何度も何度も繰り返し犯され・・・)
 お湯をかけながら、少女の体を洗うシュレードの目に妖艶な光が宿る。
(どんな気持ちだろうね、突っ込まれて、かき回されて、どんどん注がれて・・・)
 元来が色情の強いたちであるシュレードは、一団を束ねる男の妻としての立場さえなかったら幾らでも不貞を働いていたかもしれない、と、そういう女だった。トッザはあっちの方が弱いというわけでもないし、彼とのセックスに不満があったわけでもなかったのだが、シュレードには強姦願望でもあるのか、少女の体を洗ってやっているうちに、ついつい彼女に与えられた陵辱行為を頭に思い浮かべながら、自分の股間に手を伸ばしていた。
(見も知らぬ汚らしい男たちの肉棒で・・・後ろと前から同時に突かれて、口の中にも・・・)
 座り込んで自らの股間を指でこね回し、もう片方の手の指をしゃぶりながら、彼女の目はまだ幾らかこびりついた精液が体に残り、息づいた胸がゆるやかに上下している少女の肉体へと移っていった。
 天井からぱらぱらと細かな石が落ちてくる。立っているものには感じ取れないが、座っているか寝転んでいれば気付くような、そんな軽い揺れが幾度か続いた。車座になってどんぶりの中のサイコロに見入っている男たちの中では、特に敏感な一人二人が異変に気付いたようだった。
「なぁ・・・なんか揺れてねぇか?」
「地震?」
「そぉかぁ? 俺にゃぁわかんねぇけどな」
「そりゃ、お前ぇはたとえ火事でもぐーすか寝ていそうだもんな」
「ちげぇねぇ、へっへっへっへっへ」
「それそんなことよりおまえの番だぞ、はやく振れ」
「よーし」
 その異変に気付いた本人とても別にそれほどの事態であるとは考えなかったらしく、すぐ気を取り直してそれまでと同じくバクチに没頭していった。

「なに・・・?」
 横たわる少女の白い胸元に舌を這わせ、膨らみに徐々に顔を埋めていきながら左手を尻に廻し、右手を前から股間に差し入れ、いよいよこれからというときにシュレードの目の前の壁が裏側からハンマーか何かで叩かれたように、二回三回と鈍重な音を立てて鳴動した。
「なんなの・・・ちょっと! あんたーっ!」
 先ほどは自分で追い出したものだったが、流石にこんな異変が目の前で起れば不安にもなろう。大声でトッザを呼びながら、壁の前に立って確認しようと滑らかな石灰質の壁に手を添えたその時、ひときわ大きい四度目の衝撃が壁の裏側を襲った。同時に、堅固なはずの鍾乳石からなる壁が派手な音を立てて砕け散る。
 悲鳴を上げるまもなく砕け散った石の拳大ほどもある一つが彼女の頭を直撃し、シュレードはたまらず気を失ってしまった。
「シュレードッ!!」
 異常な物音と妻の呼び声とに駆られ、二人の女性が倒れている浴室にトッザが駆け込んでくる。足元には先ほどの少女が、崩れ落ちた壁の手前にはシュレードが倒れていた。そして、崩れ落ち瓦礫と化した壁の向こうに、サインが居た。
「手前ぇ・・・どうやって!」
 トッザの叫びには答えずに、サインの体がふわりと宙に浮いた。そのまま天井近くまで上ったかと思うと、見えない椅子でも存在するかのように、空中に腰掛け、その体勢のままゆっくりとトッザの方へと近づいてくる。
 明かりのついている浴室に入るにつれ、椅子の正体が明らかになった。赤茶けた胴体に紫色の触手、サインを宙に浮かべているのは、先ほどテグエグが召喚した怪物だったのだ。怪物は触手の数本をまとめて座る部分を作り、掲げるようにサインをそこに座らせたまま、じわじわと床に伏したシュレードの元へと近づいていく。
「くそっ、一体どうなってやがる!」
 サインは答えない。表情を変えずに口だけの不気味な笑みを浮かべ、怪物はシュレードに触手を伸ばす。
「させるかっ」
 シュレードの元へと素早く駆け寄ったトッザは、腰に付けていたダガーで伸び寄る触手を切り付け、そのダガーをサインへ投げつけた。まともにサインの顔面へと狙いを付けて飛んでいったダガーは、直前で触手の一本に突き刺さり目的を達成することは出来ずに終わる。しかしサインのひるんだその一瞬の隙を突いてトッザはシュレードを抱えあげると、脱兎の如く浴室から逃げ出していった。
「へぇ、結構機転が利くじゃないの」
 それまで不適な笑みを浮かべていた表情をころりと変えて、まるでいたずらが成功したときの子供のうににやりと笑う。
「さて、と。いよいよ反撃開始ね」
 触手を伸ばし、横たわる少女の体を抱えあげさせると、少女を自分の膝で抱きかかえ、そしてモンスターの触手であちらこちらの壁をぶち抜き始めた。怪物の膂力は人間のそれの比ではなかった。ドガ、ドガ、ドガとそこここに触手を叩き付けさせると、たちまち瓦礫の山が出来上がる。
「よくもまぁいままで好き勝手やってくれたもんね。ちょっと気持ち良かった事はさて置き完膚無きまでに叩き潰すわ!!」
 なかなか怨念のこもった言い方であった。
 その日、とある山の一部が盛大に崩れ落ち、そしてその土煙は遠く離れたキアス村からも見えたという。

 瓦礫の一部が盛り上がり、ガラガラと音を立てて中から人の姿が現れた。
「ごほっ、げほっ、うーっ、ひでぇ目に会った・・・」
 自分の体の下に、かばうようにしていたシュレードを助け起こす。
「何とか、生きてるようね」
 逃げるときに辛うじて身につけることが出来たぼろ布を身にまとっただけのシュレードは、彼女を庇って傷を負ったトッザに肩を貸しながらよろよろと歩き始めた。もう既にサインの姿は見当たらない。モンスターも、どこへともなく去っていってしまったようだ。
「サイン・アインバランテ・・・・この名前、忘れねぇぞ」
 自分の築き上げた盗賊団を、一夜にして本拠地もろとも文字どおり叩き潰された女の名をつぶやいて、トッザは復讐を誓った。
「俺達のことも忘れないで欲しいところですぜ」
「お前ら、無事だったのか!」
 互いに支えあい歩き始めようとした二人の前に、盗賊団の数人が姿をあらわした。しかし、全員がそろっているとはとても言えなかった。目前に並んでいるのは、10人を辛うじて超える程度の数でしかない。他の者たちは、例のモンスターに殺されたか、洞窟の瓦解に巻き込まれたかのどちらかだろう。
「タングの姿が見えないな・・・奴も死んじまったのか?」
「まぁそんなところかな・・・へっへ」
 顔を見合わせて、うすら笑いを浮かべる男たち。いくら無法者の集まりとは言え、仲間に対して見せる態度ではない。彼らの態度に違和感を感じたトッザは、シュレードの支えを振り切り、痛みを忘れてずいと詰め寄った。
「・・・手前ぇら、なんかたくらんでやがるな?」
「そういうことでさぁっ!」
 頭上から、気合いを入れるような勢いで肯定の言葉が投げられる。その言葉に反応したトッザが上を向くよりも早く、木の上に潜んでいたタングの小柄な体が宙を舞い、飛び降りざまにトッザの左腕を根本から叩き切った。
 無骨な蛮刀で寸断されたトッザの左腕が宙を舞い、傷口から鮮血が吹く。生き残りの男たちは相変わらずニヤニヤとうす笑いを浮かべ、トッザとシュレードは言葉を失っていた。呆然と立ちすくむ二人に対し、蛮刀を振りかざして木から飛び降りてきたタングは、返す刀で硬直しているトッザの右腕に切りつけた。
「な・・・ぁ・・・!!!」
 今度は、右腕の肘から先が吹出す血潮に取って代わる。
「・・・い・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 トッザが血まみれになって崩れ落ちた。シュレードが悲鳴を上げる。タングは刀を振って血のりを飛ばし、甲高い声で男たちに指示を出す。
「シュレードを捕らえろっ!」
 悲鳴を上げながら呆然としているシュレードの後ろに、指示を出された二人の男たちが回り込み、それぞれが片腕を押さえつける。未だ自分を取り戻せないで居る彼女は、男たちを振り払おうともせずに、ただ目を丸くして動かなくなったトッザを見つめ続けることしかできなかった。

「この辺までくればもう安心かな、大丈夫?」
 森の中を走って、ようやく石畳の街道へと辿り着いたサインは、ふと立ち止まると息を切らせながら懸命にその後をついてきた少女の方へと向き直った。どこで手に入れたのか黒いローブに身を包んでいるその少女は、それでも速度を加減して走っていたサインへ追いすがると、はぁはぁと喘ぎながらたまらず膝を突いてしまう。
「わりと無茶苦茶に潰してやったから、多分追っかけてはこないでしょうね」
 彼女はそういって鋭い目をほころばせ、優しい笑顔で倒れ込んでいる少女に手を差し伸べた。
「とんだ冒険になっちゃったけど、家出少女にはいい薬になったでしょう?」
 立ち上がりかけていた少女は驚いたようにサインの顔を見つめ、今にも泣き出しそうな表情でおずおずと喋り出した。
「・・・どうしてそのことを?」
「キアシア・テイル、17歳。性格は温厚だが、一本気で頑固。キアス村の村長の一人娘」
 サインはこともなげに少女のプロフィールをすらすらとそらんじた。キアシアは事態を理解するととっさに逃げ出そうと試みたが、がっしりと握られたサインの片手がそれを許さなかった。
「放して下さい! 私、絶対に戻りませんっ」
「そうも行かないのよね、依頼は依頼だから」
「あんなっ、あんな父のもとになんか帰るもんですか・・・・・・もう帰れない・・・」
 なおも抵抗するキアシアだったが、徐々に脱力しながら、しまいには泣き出してしまった。依頼主である村長の言葉を信じるなら彼女は見合いに反対して家を飛び出したということだったが、人の嘘を見抜くことにたけているサインにはおおよそ真相の見当がついていた。後半泣き出したのは、走っている間は思い出せずにすんでいた、盗賊たちに延々と陵辱された記憶がよみがえってきてしまったのだろう。サインは、説得のためあえてその傷に触れた。
「悪い事は言わないわ。あんたみたいなお嬢様が一人歩きしたってまた同じ目に会うのがオチよ」
 顔を伏せて泣いていたキアシアは、サインの述懐にびくりと肩をふるわせた。
「奴ら以外にも悪人が居ないわけじゃない・・・中には手足の腱を切って歩けない様にして、それから飼うような奴もいれば、魔物の餌や、その卵を産みつける卵床にする奴だっているわ。キアシア、あんたそうなりたいの?」
 キアシアの反応は、ない。無言の鳴咽だけが続いている。サインはゆっくりと続けた。
「あたしさえ黙っていれば、レイプされたなんて誰も知るものはいないわ。村に戻って、お父さんに謝って、そうすれば明日からまたいつもの生活に戻れるんだから。あなたみたいに可愛い娘なら、素敵な恋人だってすぐに出来るわよ。きっと」
 街道の石畳の上に座り込んでうつむいているキアシアの頭を、サインは背後からそっと両腕で包み込んだ。後には喋るものもなく、ただ鳴咽だけが森のざわめきに混じっていった。

「はあ・・・いやぁ・・・あんたぁ・・・トッザぁ・・・」
 涙を流しながら、地に伏してトッザの名を呼び続けるシュレードの後ろで、半裸の男が薄笑いを浮かべながら腰を叩き付けていた。タングだった。
 タングはシュレードを犯しながら、なおも泣き続ける彼女のホコリにまみれた黒髪を鷲づかみにし、両腕を失い倒れ込んでいるトッザの方に無理矢理向かせた。トッザは、とっくに意識は失っているもののまだぴくぴくと体を痙攣させていた。
「へっ、見ろよ。トッザの旦那もよがってる手前ぇを見てあの世で喜んでるぜ」
 言いながら、空いているもう片方の手でシュレードの乳房を強くねじりあげる。小柄な彼女の体にあまり似つかわしくない豊満な乳房に、赤く手形が浮かび上がった。
「うっ・・・ああぁっ・・・」
 たまらず上半身をそらせて悲鳴をあげるが、すぐさま髪を掴んでいるタングの手に力が入り押さえつけられてしまう。
「おれはね、いつかシュレードの姉さんをこうして力ずくで犯してやろうと、ずっと思ってたのさ」
 むせび泣く彼女の尻に自分のモノを食い込ませながら、タングは興奮したように甲高い声で話し続けた。後ろから覆い被さり、喘ぐ彼女のあごに指をかけてこちらを向かせようとする。
「今回はクーデターを起こすいい機会だった・・・あのサインとか言う女が何者かは知らねぇけど、トッザも運がなかったのさ。殆どの奴はもうおれの命令を聞くようになってたんだ・・・」
「ああ・・・ん・・・いやぁ・・・・・・いいぃ・・・」
 タングの腰の動きに合わせて、シュレードの白く張りのある尻が前後し、口からは声が漏れ出す。責め続けられた喉から発せられるその声色は、すでに男を欲するメスのものとなっていた。
「ほらっ、喜べよ。おれの子種をくれてやる。おまえはもうおれのもんだ!」
 シュレードの背中に両手で体重をかけ、地面に押しつける。白い乳房は土にまみれ、相対的に彼女の腰だけが大きくあがる格好となった。その状態で、タングは勢いに乗って力強く腰をうねらせ、叩き付け、そして小さな体を震わせた。
「そそいでやるよ! 一滴も残さずのみ込みやがれっ」
「や・・・・ぁ・・・ぁぁーっ!」
 自分の股間に打ち込まれた熱いくいの先から、どくどくと多量の精液が送り込まれ腹の中を満たす感覚に、シュレードの体は絶頂を迎えてそり返った。以前のシュレードでは目にする事もなかっただろう、征服された女の、喜びの声だった。
(待て・・・待ちやがれサイン!)
 暗闇の中で、天と地とを結んでいる一条の光が遠ざかってゆく。光柱の中では、一人の女性が冷徹な笑みを浮かべて立っていた。スマートな肉体を真紅の革地で包み込み、まるで光そのものをまとっているのかと錯覚する純白のショートローブを着たその姿が、あざけるように口元をゆがめながら遠ざかってゆく。
(何処までそうやって俺をいたぶれば気が済むんだ!)
 懸命に足を動かしているのに、いっこうに追いつく気配がない。それどころかますます光は遠ざかってさえゆく。己の周りを囲む闇そのものが粘度の高い液体でもあるかのように、水の中で駆けているかのように体が言うことを聞かない。地を蹴れば蹴るほど、前に進まずに宙に浮いてしまう。その間にも、自分を見下す視線を投げかける女の姿はぐんぐん距離を離してゆく。もどかしく、悔しく、やりきれぬ思いが心を満たす。
(『汝、何を欲す』)
(あいつを・・・サインを、サインを殺す!)
 不意に自分の意識に文字が涌いた。とっさに頭の中で答える。奇妙だとは思わなかった。それが自然なことだと思った。
(『汝、何を贄とせん』)
(サインを殺せるなら何でもかまわねぇ! 手前ぇが欲しいもんをくれてやらぁっ!)
 なおも走り続けながら、頭の中に次々とわき出てくる文字に答えを返す。
(『ならば文字を紡げ、契約の二文字をその頭に紡げ』)
(契約してやる! これでいいのかよっ!)
(『契』)
(『約』)
 突然、二つの文字がフラッシュバックした。とたんに体中に力がみなぎり、のろのろとしか動けなかった体が嘘のように軽くなった。飛ぶように地を駆けることができ、逃げ行く光柱にみるみる追いついてゆく。気がつくと天と地を結ぶ一条の光はわずか目前にまで迫っていた。光の中に、女が立っている。
(我を受け入れよ)
 しかしその女は、彼が目的とするサイン・アインバランテではなかった。腰までもある長い髪が、全裸の肉体に絡みながらあやしく揺らいでいる。髪も、肌も、一様に灰色で、とても人間には見えなかった。まるで芸術家の手による青銅像のようでもあり、それだけに美しく、そして淫靡であった。
 光柱の中に立つその女が、立ちすくんでいる男に近づいた。
(我を受け入れよ)
 女が、男のあごに手を掛ける。ひやりとした感触が伝わり、手はそのまま、するすると男に絡みついた。
(な、何のつもりだっ!)
(我を受け入れよ)
 抗いがたい、強烈な意志を持った言葉が己の首に触れている女の手から流れ込んでくる。首筋に絡みついた手は、奇妙なことにぐんぐんと伸び続け、男の体中に絡みついてきた。背中をさすり、腰を撫で、男のペニスに絡みつく。
(や・・・やめろ)
(我を受け入れよ)
 男は必死でふりほどこうともがいたが、ロープのように自分の体に絡みついてうごめいている女のしなやかな両腕に対して、男の力はあまりにも無力であった。
(く・・・なに・・・しやがる)
 もがきながらも、己の意に反して女の手に握られたものは堅さを増していってしまう。もはや自由は完全に奪われ、女のなすがままにされていた。女は、体中に絡みつきながら伸びに伸びた手の先でペニスをもてあそぶ。
(ゾステロテロム)
(・・・!? なんだと?)
(我を受け入れよ)
 女の指が、首から、背筋をなぞった。男の尻に指を這わし、中にまでもぐり込もうとする。
(我を受け入れよ)
 女が、張りつめた性器をすっぽりと口に含んだ。男の体に堪えがたい快感が走り、射精を繰り返す。
(くぅ・・・ううっ!)
 満足そうに口内に放たれた精液を飲み下すと、女は男と身を重ね、妖しく言った。
(我を受け入れよ)
 男の全身に絡みついていた触手と、その女の肉体とが、どろどろと融解して男の肉体に染み込んでゆく。一瞬、男は苦痛に顔をゆがめるが、すぐさま意識を失ってガクリと首を落としてしまう。
 闇を静寂が包み、しばらくして再び目を見開いた男の眼球は、瞳もなく、どろりとした灰色に濁っていた。男の喉が、言葉を発す。
(ゾステロテロム)
 そこでトッザは目を覚ました。

 あれから数時間が経過した。断末魔の痙攣を続けていたトッザの死体も微動だにしなくなっており、あまりに近くだと死臭がするというので、今はある程度離れた場所で、シュレードは犯されていた。
「ああん・・・突いてぇ・・・もっと、もっと深くぅ・・」
 仰向けに寝た男の腰にまたがって、ずんずんと突き上げられながらシュレードは喘いだ。顔も、首も、胸も、腹も、体のあらゆる部分を何人もの男たちの精液によってべたべたに濡れている。だが、膣や口にはさらにこの何倍もそそぎ込まれていることだろう。目をとろんとさせて、口元に泡を吹き、人間としての尊厳を失った彼女は、ただひたすら犯され続けながらも、快感を求めて腰を振り続けた。
「うへへ・・・こうなっちゃぁシュレードの姉御も形無しだな」
「ま、どの女も本性なんてこんなもんよ。トッザの野郎が死んだ今となっちゃ、姉御もこうやって生きて行くしかねぇってことさ」
 下から男に突き上げられているシュレードの顔の脇に、己のペニスを突き出した。もう既に、何も言わずともシュレードは自らそれにしゃぶりつくまでになっている。必死で口にくわえ、両手を男の腰に回してしがみつき、根本まで口腔に収めようと躍起になっている。
「ああ・・・たまんねぇなぁ・・・あのシュレードの姉御が、こうやって懸命に俺のモンを加えてくいるなんてな・・・・うっ」
 男が達すると、シュレードは口の中でペニスごとぴちゃぴちゃと弄びながらゆっくり飲み込んでいった。その間に、下の男も果てる。
「はぁぁ・・・いっぱい・・・いっぱい入ってくる・・・」
 下の男にしても、これで幾度めかの射精であるのでそんなに量は出ない。だが、シュレードはそう言う言葉がこの獣となった男たちの嗜虐心をそそることを知っているかのように、そういった性欲に隷属しているかのごとき言葉を吐き続ける。事実、この台詞にそそられて、脇で休んでいた男が服を脱ぐのももどかしく再び彼女を犯そうと立ちあがり、もうこれで幾度目ともしれぬ、たがの外れた乱交に挑もうとする。シュレードは、もはや完全に自ら望んで犯されていたのだった。
 そのとき、木の根本に放置してあるトッザのむくろが、小さく痙攣したように見えた。
「・・・・?」
「どうしたよ、トッザの死体なんか見つめちまってよ」
「今・・・動かなかったか?」
「よ・・・よせよおい、死体が生き返ったってのか?」
 男たちの間にざわめきが起こる。そんな馬鹿な、いや俺も確かに見たという声があがった。
「お前ぇらなに間の抜けたこと言ってんのさ。トッザは死んだ。おれが殺したんだ」
 ざわめきを沈めたのはタングであった。これから、こいつらをまとめていくのだから、おれはこういうことで試されるのだ。タングはそう自分に言い聞かせて、こうやって見る限り動くはずのないトッザの死体の元へと近寄った。
 ざわ・・・・。
 そびえ立つ木々の梢が大きく揺れた。びくっとして上を仰いだタングであったが、馬鹿な、ただの風じゃぁないかと結論づけて、再び視線を地に落とす。トッザと目があった。
「あ・・・あ・・・そんな・・・馬鹿・・・な・・・」
 タングの体がわなわなと恐怖に震える。トッザの目は、確かに開いていた。木の根本へ座り込むように置かれた両腕のない死体は、瞳のないどろりと灰色に濁った目を見開いて、タングを見上げていた。
「の・・・野郎っ! 死に損なったかぁっっ!!!」
 自らを縛る恐怖を断ち切らんとばかりに、タングはやにわに腰に差した蛮刀を抜いてトッザの死体に襲いかかった。その瞬間、トッザは立ち上がり、そしてタングの首を絞めて持ち上げた上げた。
「が・・・!?」
 じたばたと足をもがいて宙を蹴るが、よけいに食い込んで苦しくなるだけだった。両腕のない死体に首を絞められているという異常な事態について考える余裕はなかった。必死で右手に持った蛮刀を振り下ろすことで、自分の首を絞めている腕を切り落としてようやく解放された。
「げほっ・・・こ・・・こいつ?」
 そこで初めて、タングはこの異常な事態に気づいた。タングの目の前で、トッザの死体が腕の切り口から触手を生やして仁王立ちになっているのだ。いや、もはやそれはトッザの死体ではなかった。大きく見開かれた灰色の双眸は、人の意識を感じさせない。眼球の代わりに青銅の玉でも埋め込まれているかのようだった。
 周りで見ていた盗賊団の男たちは、トッザの死体が触手を生やしてタングに襲いかかるところを目撃しており、あまりの異常さに遠巻きに眺めているのみだ。タングを助けようと飛び出してくる者は一人としていない。
「ほ・・あ・・・あ・・・あ・・・あ・・・ああああああああ!!!」
 トッザが吼えた。びりびりと空気が振動し、木々までもが梢を揺らすほどの音圧が周囲を震撼させた。ショックで金縛りになっているタングの胴体を、トッザの肩から生える触手が薙いだ。
「・・・・・」
 突然支えを失った上半身が、仰向けに崩れ落ちる。タングの目には、木々の梢から望む青空が映り、続けて幾本もの触手が鋭く視界に突き刺さってくる様子が見えた。苦痛を感じる間もなく、タングの意識は途絶えた。
「ひ・・・ぇえええええええっ」
 何の抵抗も許さずにタングを殺したトッザの死体が、人間とは思えない動きで跳躍した。森の中へ逃げ込もうとした一人の首を触手で薙ぎ払い、失禁して地面にへたり込んでいる一人を頭から縦にかち割った。
 後ろで気配を感じ、振り向きざまに触手をたたきつける。
「ふんっ!!」
 その男は、叩きつけられた触手を片手で掴んだ。盗賊団一の肉体と怪力の持ち主、コーゴだった。トッザはもう一方の触手で首筋を狙ったが、これもまたいかつい手のひらに阻まれる。トッザの腕から生えた触手を両方とも捕らえたコーゴは、そのまま投げ飛ばそうとばかりに力を加えた。
「が・・・ぐ・・・」
 投げ飛ばそうと両の触手を引き寄せたそのとき、トッザの胴体から数本の触手が飛び出してコーゴの体を貫いた。たまらず力を失って地に膝をついたコーゴの首に、触手が巻き付き締め上げる。
「ぁ・・・・ぁ・・・・」
 みるみるうちに顔面が紫色に染まり、口から泡を吹き始める。ごきり、と延髄の砕ける嫌な音がして、コーゴは白目をむいた。
「うわぁぁぁっ、逃げろぉぉ!」
 蜘蛛の子を散らすように逃げ去る残党の全てを、この化け物が殺戮し終わるまでにそう長い時間を要することはなかった。全ての男たちを惨殺した化け物は次に、全身に精液を浴びて、なおも夢の中といった目で、ただぼーっと座り込んでいたシュレードに向かった。
「ああ・・・あんた・・・トッザ・・・帰ってきてくれたんだね・・・生きてたんだね・・・」
 熱に浮かれた目から涙を流し、ついさっきまでトッザの死体だった化け物に向かって、シュレードはほほえんだ。だが、彼女は正気ではなかった。
「よかった・・・あんたが生きててくれて・・・ねぇ・・・犯しておくれよ・・・いつもみたいに、その触手でさ・・・」
 果たして化け物となったトッザに感情という物が残っていたのだろうか、変わり果てた妻を前にして、怪物となり果てたトッザは、その触手でもってシュレードを抱き上げた。シュレードの足を大きく開かせて、股間へ触手を突き立てる。
「ああ・・・いいよ・・・あんたを感じるよ・・・トッザ・・・」
 二本の触手をそれぞれ胸へ這わし、先端で乳首を摘むようにこねまわす。腰に回し、尻を撫で、膣とともに肛門へと触手を挿入した。既に男たちの精液によってしとどに濡れていた菊座はぬるりとした感触を伴って何の抵抗もなく触手の進入を許す。数本の触手で同時に膣壁を責め立てながら、内蔵を犯す触手が胎動を与えた。
「あああっ・・・いいっ・・・はぁん・・・ひいっ・・・ひいっ・・・」
 行為を激しくしていくにつれて、シュレードはますますよがり狂っていく。ただそればかりが全てだとでも言うように、己の手の内で血液と精液にまみれて嬌声を上げる我が妻の姿を見つめる化け物の目玉は、どろりと灰色に濁っていた。
 トッザ一味のアジトより脱出して丸三日。サインとキアシアの二人は、ようやく家出してきたキアシアが帰るべきキアス村まで後一歩というところまでたどり着いていた。ここまで来れば人通りも賑やかになってきており、例え女の二人旅であっても日中ならば危険らしい危険もなく旅を続けることが出来る。キアシアも、この道程でだいぶサインに心を許すようになっていた。脱出してからしばらくの間は、いくらサインが話しかけても落ち沈んだ目で深刻な顔をし続けていたものだったが、我が家に近づくにつれて安心したのか、サインの話に相づちを打つぐらいはするようになってきていた。
「ま、無理に話すことなんて無いからね。あなたが家出したことについてはガラスさんから細かいこと全部聞いてるし、きっとあなたの知っていることよりあたしの持っている情報の方が正確だわ」
「はい…」
 ガラスとは、キアス村の村長の名であり、そして彼はキアシアの父親でもある。キアシアはガラスのもたらした縁談に反発し、そのことが縁談相手の社会的地位を奪い自らの親友にまで危害が及ぶ事件に発展したと、そういった自責の念から家出するに及んだのであった。その過程で数多くの事実と、それを上回る虚実に触れた混乱も、キアシアが衝動的な逃避へと身を投じる一因となっていた。
「それとね、多分あなたが心配しているのは……バイアレル、のことだと思うんだけど…」
 王国からキアス村へ派遣されている村落守護兵団の長、バイアレルの名前が出たとたんに、キアシアはまるでそれが恐れている者の名で有るかのように身を縮みこませた。
「奴のことなら大丈夫。きっと、正当な理由がある限りエメイズの方が処分を受けるはずよ」
「…えっ?」
「エメイズたちがあなたの親友、クアナに対して行っていた虐待の証拠を掴めたから、ね」
「でも…貴族は滅多なことでは罪に問われることはないと聞いてます……」
 信じ切れないキアシアは、うつむき気味に首を振って答えた。
「そうね…それは確かよ。滅多なことではユーコン貴族が罪に問われることはないわ。ユーコンは血のつながりを重んじる国家だから……あそこの貴族には誰しも少なからず国王の血を引いているって話だものね」
「でしたら…」
「ユーコンには血の繋がりよりも濃い……禁忌といっても良いほどの重んじるべき伝統があるのよ。早い話がエメイズはそこに触れちゃったってわけ」
「…?」
 普通の人なら一生知る必要の無いことだけどね、とだけ付け足して、サインはそれきり話を切り上げてしまった。気にはなったが、エメイズが罰せられるほどの禁忌と聞いて、キアシアもそれ以上深く知りたいとは思わなかった。
 道の脇に立ち並ぶ木々もそろそろその密度を薄くしてきている。このままこの街道を進めばそう遠からぬ内にキアス村へとたどり着くだろう。ふと頭上を見上げれば、良く晴れた空をさえぎる梢の間を小鳥が数匹舞っている。そんな平和な風景にも関わらず、サインは何故かひどい胸騒ぎを感じていた。だが、内心の心配など微塵もあらわさず、さぁ急ぐわよ、とだけ言い放って、徐々に歩みを早めていった。

(どうして…どうして俺がこんな目にあわなければならない…)
 じめじめした地下牢の床に座り込み、エメイズは思案にふけっていた。バイアレルに殴られて、連行された後、エメイズの目の前に現れたのは自らの父親であった。ユーコン王国内政管理院を統べる役職にある父親の権力を持ってすれば、街娘のたかだか一人や二人の問題などどうにでもなる。そう考えてエメイズは父親に泣きつこうとしたの。
「エメイズよ……もはや私にもどうにもならん。我が子ながら馬鹿なことをしたものだ…」
 哀れみを込めて、しかし自分の子供に対する優しさを決して失わない目でエメイズを見つめてそう言った。瞼を閉じて、顔を伏せる。
「私の降格もあり得るかもしれん。だが、せめて、罪は軽くなるように国王閣下には働きかけて見るつもりだ…」
 エメイズを甘やかして育てた代償を、彼の父親は払うことになったのだ。だが、当の息子はまだ己の罪がなんなのか理解していなかった。低い身分の女を犯した。騙して結婚を妨害しようとした。そのどちらもエメイズにとっては罪たり得なかったのだ。
(村長の娘など別にどうでも良かった…ただ貴様に屈辱を味あわせることが出来ればそれで良かった。あの娘に吹き込んだ嘘は…貴様に対する俺の憎しみだった……)
 嫉妬という感情が、恨み辛みに変化してバイアレルをよりいっそう憎ませる手助けをした。
(イミヒトの娘……何回犯したか…他の奴にも犯させたこともあったが……それの何処が悪い。相手はイミヒトじゃないか……奴らは人間じゃないんだ!)
 エメイズのイミヒトに対する熾烈なまでの迫害意識は、彼自身の幼児体験に起因していた。まだエメイズが物心つく前の頃、彼が良くなついていた一人のメイドが居た。彼女は、イミヒトの家系だったというだけでまるで家畜のような扱いを受け、過労の末、ついには死に至ったことがあったのだ。
 そんな有様を見て育った子供時代のエメイズに、ついにはイミヒトイコール家畜という図式が出来上がったとしても、おかしくはない。
(バイアレル…貴様が…憎い……たかが騎士のくせに、二目と見れぬ顔のくせに、この俺の存在がかすむほどの人気を得て……信頼を得て……)
 鬱屈とした感情が、現在の境遇の直接の原因をもたらすことになったバイアレルへ対する憎しみとなり、腹の底によどみを作っていった。ふと、エメイズは目前に光の柱が立っているのに気づいた。
(バイアレル!)
 光の柱の中心に、青い鎧に身を包んでこちらを見ている一人の兵士が居た。フルアーマーをまとっているので顔も何も見えないが、エメイズには分かった。それは、バイアレルだと確信した。無意識のうちにエメイズは立ち上がった。
(貴様っ、待て!)
 エメイズの目の前で、光の柱は移動をはじめた。その後を追おうとするが、ぐんぐん速度を上げていく光柱にはいくら走っても追いつけなかった。自分が地下牢にいるはずだということなど、既に彼の頭からは消えていた。実際に、いくら走ったところで壁にぶち当たることもないこの状態では、とにかくあの光柱に追いつけさえすればそれで良かった。だが、一条の光はもうすでに遙か遠くに見えるだけとなっていた。
(おのれっ、戻ってこい!)
 不思議と、走れど走れど肉体が疲労することはなかった。それどころかますます力がみなぎってくるようですらある。渾身の力を込めて地を蹴ると、信じられないぐらいの速度で走ることが出来た。
(何がおかしいっ!)
 どれだけ走ったか分からないが、あと一息で追いつけるというところまで近づくことが出来たとき、一瞬バイアレルの顔が笑ったようにゆがんで見えた。フルフェイスの兜を身につけているため表情は分からないはずだが、エメイズにはそう感じられたのだ。そして次の瞬間、全身が泥沼にはまったのかと思われるほど重たくなった。足下がおぼつかず、ひとたび足をおろすと、再び足を上げるのにも一苦労だった。そうこうしているうちに光柱の中のバイアレルはみるみる遠ざかっていってしまう。思うように動かない肉体がもどかしく、そして悔しかった。
(『汝、何を欲す』)
(バイアレルを殺してやる!)
 不意に自分の意識の中に文字が浮かび上がった。エメイズは反射的にそれに答えた。文字は解け合うようなイメージを残して消え去り、続いてエメイズの叫びに応じるように次の文字が浮かび上がる。
(『汝、何を贄とせん』)
(何でも構わん! 金、地位、女、俺の出来ること全部をくれてやる!)
 相変わらず泥の中でもがきながら、頭の中に浮き上がる文字に答えを返す。そうすることが自然なことなのだと、ぼんやりと考えていた。
(『ならば文字を紡げ、契約の二文字をその頭に紡ぎ示せ』)
(契約だと!? ああ、してやろうじゃないか! 契約成立だっ!!)
 刹那、二つの文字が脳裏に瞬いた。
(『契』)
(『約』)
 とたんに全身を覆っていた重たさ、だるさが嘘のように消え去った。みなぎる力がよみがえり、再び飛ぶように走ることが出来た。遠くに逃げ去っていた光条が、見る間に近づいてくる。
(待ってろ! 今殺してやる!)
 ひと蹴りごとに速度の上昇が感じられた。なおも体に力がみなぎる。これなら、甲冑を着た兵士といえども素手で絞め殺すことも出来るだろうと思った。その感覚を想像するだけで、エクスタシーがエメイズの体を駆け抜ける。
(……?)
 薄ら笑いを浮かべながら、今まさに光柱へと追いつこうとしていたエメイズだったが、光の中にたたずむシルエットを認めて怪訝な顔となった。小さな頭、豊満な胸と腰と、それを強調するようにくびれた腰、明らかに鎧を着たバイアレルの姿とは異なっている。その姿は、まごう事なき女性の裸身であった。
(我を受け入れよ)
 いきなり光柱が広がった。一気にあたりが覆い尽くされ、見渡す限り白く輝く世界に塗り替えられる。世界に溶け込みそうなほど真っ白な裸身を露わにしているその女性が、おもむろにエメイズのもとへと歩み寄った。女性にしてはいやに大きな掌がエメイズの胸に添えられ、もう片方の手が股間を這い回る。気がつけば、エメイズもいつの間にか一糸まとわぬ姿をさらしていた。
(何のつもりだ)
 女は上目遣いにエメイズの顔を見ながら、背中に指をなぞらせる。股間に這わせた指は、絡みつくようにエメイズのペニスを刺激してきた。長くなめらかな白魚が、カリ首を舐め、睾丸をくすぐる。たかが片手の愛撫だったが、まるでそれぞれが別の生き物のように吸い付いてくる女の指技に、エメイズはかつて無い快感を覚えていた。
(我を受け入れよ)
 女の眼がエメイズの右目を見据えた。抗いがたい強烈な意志を持った言葉が、己の脳髄を支配するかのように響いた。背骨をなぞる片方の手が、するすると伸びて首に絡みつく。五本の指が口元に迫り、ついには口の中へと進入してきた。
(う…ぐぅっ)
 奇妙なことに、吐き気を覚えるようなことはなかった。口の中を這い回る女の指は、爪が無いのか、ひどく滑らかだ。舌を撫で、口腔をくすぐり、喉の奥へと流れ込む。呼吸が苦しくなるといったこともない。冷水を飲み下す時と同じく、非生物的な冷たさ感じさせながら女の指は内臓の奥へ奥へと降りていった。
(ヤ…メ…ロ…)
 股間へ添えられていた片手も、いつの間にか人間の手という形態を崩してエメイズの下半身全体をくまなく愛撫していた。女の指は、もはや五本ですらない。数え切れないほどの指が、うねうねとエメイズの下半身の上でのたくっていた。一本の触手がエメイズのペニスにらせんを描いて絡みつき、どくどくと脈打ちながら伸縮を繰り返す。さらに数本は、すらりと伸びた足を這い回り、煽動しながら自由を奪う。腰から胸元までを覆うものもあれば、菊座を奪ってエメイズに屈辱を与える一本もあった。
(あ…あ…)
 体をガクンとのけぞらせて、エメイズは幾度も射精した。雷に打たれたように全身を痙攣させながら、そのたびにドクドクと白濁した粘液を吐き出す。全身を這い回り内臓までもを犯す触手の群は、それからも行為を激しくしていった。やむことなく延々と続く快感にエメイズはもはや声も出ず、ただむせぶように息を吐き出しながら、のっぺりとして途切れることのない射精感に支配されていた。
(我を受け入れよ)
 既に人間の形態すらとることをやめた『それ』は、次第にどろどろと融けてエメイズの皮膚へ染み込むように消えた。支える物を失った肉体は、意識を失ってどさりと崩れ落ちる。
 あたりを包んでいた真っ白な光の中で、しばらくしてエメイズは再び眼を開いた。しかし、その眼球はどろりとした灰色に濁り、瞳もなく、うつろなまなざしをただ中空へと向けているだけだった。

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